広島地方裁判所 平成元年(行ウ)9号 判決 1998年3月31日
原告
世良弘造
外二名
右三名訴訟代理人弁護士
服部融憲
同
木山潔
同
井上正信
被告
牧本幹男
外四名
右五名訴訟代理人弁護士
中川哲吉
同
河村康男
同
大迫唯志
同
野曽原悦子
被告
株式会社備掃社
右代表者代表取締役
塩村一
被告
塩村一
右二名訴訟代理人弁護士
原田香留夫
同
秦清
同
阿波弘夫
同
笹木和義
同
本田兆司
同
高盛政博
同
桂秀次郎
主文
一 被告牧本幹男、同栗原誠、同株式会社備掃社及び同塩村一は、訴外福山市に対し、各自金一億四九九四万七八四八円及びこれに対する被告牧本幹男及び同栗原誠については平成元年四月五日から、被告株式会社備掃社については平成元年四月六日から、被告塩村一については平成元年四月八日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告徳重照は、訴外福山市に対し、金一億一四八五万一六五〇円及びこれに対する平成元年四月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告大久保文夫は、訴外福山市に対し、金三三九八万九七八五円及びこれに対する平成元年四月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告らの被告牧本幹男、同栗原誠、同株式会社備掃社、同塩村一、同徳重照に対するその余の請求及び被告山下重之に対する請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用はこれを六分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告山下重之を除く被告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 主文三項同旨
2 被告牧本幹男、同栗原誠、同株式会社備掃社及び同塩村一は、訴外福山市に対し、各自金一億七一七一万五三九七円及びこれに対する被告牧本幹男及び同栗原誠については平成元年四月五日から、被告株式会社備掃社については平成元年四月六日から、被告塩村一については平成元年四月八日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 被告徳重照は、訴外福山市に対し、金一億三七七二万五六一二円及びこれに対する平成元年四月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 被告山下重之は、訴外福山市に対し、金一億七一七一万五三九七円及びこれに対する平成元年四月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は被告らの負担とする。
6 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
(被告牧本幹男、同栗原誠、同徳重照、同大久保文夫及び同山下重之)
1 原告らの被告牧本幹男、同栗原誠、同徳重照、同大久保文夫及び同山下重之に対する請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
(被告株式会社備掃社及び同塩村一)
1 原告らの被告株式会社備掃社及び同塩村一に対する請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
(一) 原告らは、いずれも普通地方公共団体である広島県福山市(以下、「福山市」という。)の住民である。
(二) 被告牧本幹男(以下、「被告牧本」という。)は、昭和五八年一〇月三日から福山市の市長の職にあった者である。
被告栗原誠(以下、「被告栗原」という。)は、昭和六〇年一〇月二五日から、被告徳重照(以下、「被告徳重」という。)は、昭和六二年一二月一八日から、被告大久保文夫(以下、「被告大久保」という。)は、昭和五八年一〇月三日から昭和六二年四月一七日まで、それぞれ、福山市の助役の職にあった者である。
被告山下重之(以下、「被告山下」という。)は、昭和六〇年一〇月二五日から、福山市の収入役の職にあった者(本件の公金支出(2)の期間の収入役)である(右被告ら五名については、以下、「被告福山市関係者」という。)。
(三) 被告株式会社備掃社(以下、「被告備掃社」という。)は、下水処理場用土砂運搬業、産業廃棄物収集運搬業等を事業目的として昭和四七年七月一一日に設立された会社であり、被告塩村一(以下、「被告塩村」という。)は、被告備掃社の設立時からの取締役であり、平成三年四月二六日以降同社の代表取締役である。
2 本件の公金支出
福山市は、被告備掃社との間で昭和六二年四月一日に締結した契約(すなわち、後記4(一)のとおり、福山市が指定する区域内において、町内会等地域住民の奉仕活動等による用排水路、道路、側溝等のしゅんせつ、清掃作業によって排出された汚土、雑草その他の混合物(以下、単に、「汚土」という。)を収集し、広島県福山市箕沖町所在の埋立地(以下、「箕沖埋立地」という。)へ運搬することを被告備掃社に委託することを内容とする。)に基づく委託料として、金四一六七万七二〇〇円を支出し(但し、昭和六二年一二月二二日から昭和六三年三月三一日搬入分)、昭和六三年四月一日に締結した同内容の契約に基づく委託料として金一億四九九六万八〇〇〇円を支出した(但し、同年四月一日から同年一二月二一日搬入分)(以下、右各契約を、「本件各契約」という。)。
3 被告備掃社の収集運搬状況
昭和六二年一二月二二日から昭和六三年一二月二一日までの期間の被告備掃社の作業員による収集搬入状況及び福山市の職員による指示の有無等は、別表一(収集搬入一覧表一)のとおりである。
4 本件各契約の内容、汚土収集運搬及び委託料支払の適正な手続等
(一) 本件各契約の内容
本件各契約は、福山市が、汚土収集運搬につき委託料(一台の車両が箕沖埋立地に一回運搬するにつき、昭和六二年度は二万〇四〇〇円、昭和六三年度は二万〇六〇〇円)を、当月分を翌月一〇日限り支払うものとして、汚土収集運搬業務を被告備掃社に対して委託することを内容とするものであり、いずれも随意契約の方法(普通地方公共団体が契約の相手方を競争の方法によらないで選択して締結する契約方法)により締結された。
(二) 汚土収集運搬及び委託料支払手続
汚土収集運搬及び委託料支払について本来とられるべき手続は、次のとおりである。
(1) 汚土の処理依頼
福山市土木部土木建設課維持係(以下、「維持係」という。)の職員は、町内会、衛生委員、土木常設委員等から、電話又は直接口頭により、汚土処理の依頼の連絡を受け、住宅地図により、当該汚土の所在場所を確認する。
(2) 受付
維持係の職員は、受付年月日、汚土発生場所、地元代表者、受付者及び指示月日、指示台数について、受付簿に記載するとともに、位置図を作成し、集積場所を記入する。
(3) 現場確認
維持係の職員は、汚土所在場所に赴き、委託台数、内容物(汚土か否か)を確認する。
(4) 指示及び発注
維持係は、町内清掃汚土処理指示書(以下、「指示書」という。)及び位置図を各二通作成する。指示書には、年月日、収集場所、運搬する処分地、処理期限日と備考欄にそれぞれ記入(備考欄には見積台数)し、指示者である福山市土木部建設課長(以下、「建設課長」という。)から右指示書に決裁印を受けることとする。そのうえで、被告備掃社に対し、内各一通及び現場確認において見積もりをした台数分の町内清掃汚土搬入伝票(以下、「搬入伝票」という。)を交付する。なお、控えの指示書には、受領者の署名及び受領年月日を記入する。
(5) 収集及び運搬
被告備掃社の作業員は、指示書及び位置図により発注された汚土を収集し、箕沖埋立地に搬入する(右作業員及び使用される車両は、福山市に届出されたものである。)。
(6) 計量確認
被告備掃社の作業員は、搬入伝票に、収集場所(町名)、汚土の重量、搬入年月日、搬入時刻、車両の登録番号及びその運転者名を記入し、箕沖埋立地計量場(以下、「計量場」という。)の福山市職員により搬入物の計量確認を受けた後、搬入伝票に割印を受ける。搬入伝票の半券の一方は、計量場にて保管され、月毎にとりまとめられ、維持係に送付され、他方は、当該作業員に交付される。
なお、福山市の職員は、右計量の結果について、「箕沖埋立地廃棄物搬入届兼許可伝票」(以下、「許可伝票」という。)を作成し、福山市環境事業部清掃管理課(以下、「清掃管理課」という。)で保管する。
(7) 委託料の請求
被告備掃社の職員は、支払命令書、町内清掃汚土処理委託業務報告書(月毎の委託料請求を汚土処理報告書の月別に取りまとめたもの、以下、「業務報告書」という。)に搬入伝票の半券を添付して、毎月毎に維持係に提出する(月末締め翌月払い)。
(8) 伝票照合
維持係の職員は、被告備掃社からの委託料請求に対し、搬入伝票の各半券(被告備掃社提出のものと箕沖埋立地から送付されたもの)を確認し、その車両台数と業務報告書記載の台数を照合し、さらに、業務報告書の車両台数と指示台数とを照合する。
(9) 支出伺書及び支出命令書の起案
建設課長は、委託料請求書、委託業務報告書、伝票確認書(搬入伝票を確認した旨の文書添付)をもとに、支出伺書及びこれに対応する支出命令書を起案する。
(10) 予算整理
福山市監理課庶務係は、関係各文書((9))の受領後、予算事務支出負担行為等帳票の整理を行う。
(11) 支払
福山市出納長は、前項の庶務係から送付された支出命令書の内容を審査し、収入役の承認を得て、被告備掃社に対し、広島相互銀行福山南支店の当座預金口座への振込の方法により支払う。
5 本件の公金支出の違法事由
(一) 汚土以外の物件の収集、運搬に対する委託料の支出について
被告備掃社の作業員は、前記のとおり(3)、汚土以外の物件(具体的には、不法投棄物、ゴミ、家電製品、草、廃材、山土等、以下、「汚土外物件」という。)をも収集し、箕沖埋立地に搬入し(別表一の違法伝票欄「汚土以外」記載分)、計量場の福山市職員に対して、汚土である旨虚偽の事実を申告して計量させ、搬入伝票に検印を押印させ、その旨の搬入伝票の半券を受け取り、被告備掃社の職員は、これに基づき、福山市から汚土外物件の搬入台数に応じた委託料をも請求し、福山市は、これに対しても公金を支出した。
本件各契約において被告備掃社に対して収集運搬が委託されている物件は汚土であるから、汚土外物件を本件各契約に基づき収集、運搬することはできず、汚土外物件の収集、運搬に対する公金の支出は、法的根拠なくなされたものであるから、違法なものである。
(二) 指示のない収集運搬
被告備掃社の作業員は、事前に一括交付を受けていた白紙の搬入伝票(一度に三〇〇枚ないし五〇〇枚程度)により、福山市から指示書による具体的指示のないまま勝手に収集搬入した(別表一の違法伝票欄「指示なし」記載分)。
そのため、福山市の職員は、現場確認を行わないまま、被告備掃社作成の「汚土処理報告書」あるいは業務報告書に基づき、建設課長の決裁印が無断で押印されて、収集搬入後に指示書を作成し、随時、被告備掃社からの委託料の請求を受け、搬入伝票を確認せず、被告備掃社から提出された業務報告書に基づいて伝票確認書を作成し、許可伝票と搬入伝票との間に齟齬を残したまま、支出伺い及び支出命令書を作成したのであり、右処理は、本来とるべき汚土収集運搬及び委託料支払の手続(4(二))に反するものであり、これに対する金員の支出は、違法である。しかも、本来とるべき手続(4(二))は、正式に文書として規定されておらず、不完全なままであった。
(三) 汚土の収集、搬入に対する委託料の支出について
(1) 本件各契約を随意契約の方法により締結した点について
① 本件各契約は随意契約の方法により締結されている(4(一))ところ、随意契約の方法は、一般に、一般競争入札及び指名競争入札に比して手続が簡略であり、経費の負担が少なく、また、契約の相手方を、その資力、信用、技術、経験等の能力を熟知したうえで選定できることから、地方自治法二三四条一項により認められているが、相手方選定の公正さを確保するため、随意契約によることができる場合が政令で限定されており(同条二項、地方自治法施行令一六七条の二第一項各号)、さらに、福山市では、同条一項一号を受けて、福山市契約規則(以下、「本件規則」という。)四一条において、契約予定価格の上限を規定している。
しかし、本件各契約の場合、地方自治法施行令一六七条の二各号に該当しない。すなわち、本件各契約は本件規則四一条各号のうちの(6)に摘示されている種類の契約(請負、財産買入、賃借、財産売払、賃貸以外の契約)に該当するところ、同条(6)にいう「予定価格が五〇万円を超えないものをするとき」とは、本件各契約については各年度として定めている期間の年額または総額が五〇万円を超えない場合をさすと解されるから、その一年間の予定価格が五〇万円を超えることが明らかな本件各契約は、地方自治法施行令一六七条の二第一項一号に該当しない。また、同令一六七条の二第一項二号にいう「その性質または目的が競争入札に適しない場合」とは、契約の相手方、目的物、契約の履行行為等において、専ら非代替性が認められる場合をさすと解されるところ、本件各契約の内容は、前記のとおりであり(4(一))、特別な技術、経験等を必要としない単純な役務提供を目的とし、非代替性を有するとはいえないから、「その性質または目的が競争入札に適しない場合」に当たらず、同号にも該当しない。さらに、本件各契約の内容が、同条のその余の各号に該当しないことは明らかである。
したがって、本件各契約は、同令一六七条の二第一項列挙のいずれの号にも該当せず、随意契約の方法によることはできない(地方自治法二三四条二項)にもかかわらず、いずれも随意契約の方法で締結されたものであるから、違法である。
② 随意契約の制限に関する法令に違反して締結された契約の私法上の効力について、最高裁判所昭和五六年(行ツ)第一四四号昭和六二年五月一九日第三小法廷判決(民集四一巻四号六八七頁参照)は、右違反とは別途考察する必要があり、かかる違法な契約であっても私法上当然に無効になるものではなく、随意契約によることができる場合として地方自治法施行令の規定の掲げる事由のいずれにも当たらないことが何人の目にも明らかである場合や契約の相手方において随意契約の方法による当該契約の締結が許されないことを知りまたは知り得うべかりし場合のように当該契約の効力を無効としなければ随意契約の締結に制限を加える前記地方自治法及び地方自治法施行令の規定の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認められる場合に限り、私法上無効になるものと解するのが相当であると解されている。
そして、本件各契約は、福山市が発した昭和五七年九月三〇日付通達により何人の目から見ても随意契約の方法で締結できない契約であることは明らかであること、被告備掃社は汚土外物件の収集搬入に基づき委託料を請求し、福山市はこれに対して請求されるままに委託料を支払っており、情実に左右された手続に陥り、公正な取引の実を失している状態であったことからすれば、右記最高裁判所昭和六二年判決にいう特段の事情が認められるといえるから、私法上においても無効と言わざるを得ず(同法二条一五項、一六項)、本件各契約に基づく汚土の収集運搬に対する委託料の支出(公金の支出)は、何ら法的根拠を有しないものであり、違法である。
(2) 本件各契約の公序良俗違反
一台の車両が箕沖埋立地に一回運搬した場合に本件各契約に基づいて支払われる委託料(以下、「単価」という。)は、その適正金額である金一万四三六九円(平成元年四月から導入された汚土収集運搬委託先を決定するための指名競争入札における落札単価平均値)を大きく上回るものであり、しかも、その基準を車両台数及び搬入回数としており、積載量を故意に少なくしてその分搬入台数を増やすという不当な行為を可能にするものとされている。
その原因は、① 本件規則が、予定価格は契約の目的となる物件又は役務について、取引の実例価格、需給の状況、履行の難易、数量の多寡、履行期間の長短等を考慮して適正に決めなければならないとし(三〇条、四一条及び四二条)、二名以上の者から見積書を徴しなければならないとしている(四三条)にもかかわらず、右各規定に反し、見積書を被告備掃社からしか徴せず、適正価格の判断ができなかったこと、② 予定価格の決定の際、通常の福山市文書取扱規程の内容(上司の処理方針に従って、事務分掌により定められた担当者が起案し、稟議することになっていた。)に反して、被告牧本の命により、福山市建設部長、下水道部長、土木部長、農林部長、環境事業部長が鳩首協議したうえ起案、決定し、総務部長及び企画財政部長が合議して決定し、二名の助役(被告栗原及び同徳重あるいは被告大久保及び同栗原)が合議決定し、被告牧本の決裁を得るという手続がとられたこと等にある。
したがって、本件各契約は、単価が高額すぎること及びその原因からみて、公序良俗に反し無効であり(民法九〇条)、これに基づく汚土の収集運搬に対する委託料の支出(公金の支出)は、違法である。
6 被告らの責任
(一) 事実関係
(1) 福山市は、昭和四四年頃、ゴミ収集につき、直営区域(福山市の直営)と委託区域(業者への委託)に区分して対応しており、被告塩村(当時は、個人で廃棄物処理等を業としていた。)のゴミ収集委託の申出についても、当時のゴミ排出量からみて必要ないとして、これを容れず(なお、被告塩村は、昭和四四年六月頃から、委託業者の雇用人として、不法投棄物及び汚土の収集運搬業務に従事していた。)、また、昭和四六年一二月に右各区域を再編した際にも、被告塩村の選定には委託業者会(一二業者により組織)との関係で支障があり、また、被告塩村に経験がなく政令により定められている委託基準を満たさなかったことから、被告塩村を委託業者に選定しなかった。
(2) 被告塩村は、委託業者の選定にもれたことを不服として、昭和四七年五月、福山市清掃センター所長の檀上寿夫に念書(甲二八)を、福山市土木建設部長の佐藤俊男に詫状(甲二九)をそれぞれ書かせ、さらに、同年七月一一日、被告備掃社を設立し、自らその取締役となった後も、再三、福山市役所を訪れて、汚土収集の委託業者に被告備掃社を選定するよう申し入れ、昭和五五年七月五日、福山市助役の藤井守及び同市衛生局長の小畠本企との間で確認書(甲二七)を交わし、さらに、同年八月二三日、福山市長中川弘との間で、被告備掃社に独占的に汚土収集運搬業務を委託することにより昭和四四年以来の「懸案」(被告備掃社の不正な要求)を解決するとして、確認書(甲三二)を交わすとともに、福山市との間で、被告備掃社に対し、汚土収集運搬業務の一部の委託をする旨の契約を締結させた。
(3) 被告塩村は、昭和五九年頃から、汚土収集運搬業務について福山市役所に怒鳴り込んでくるようになり、担当の環境事業部の職員が、被告塩村の右言動を理由とする所管替えを要求したため、被告牧本、同大久保他一名(助役)は、昭和六〇年四月一日から、下水道部に委託に関する業務を移管するに伴って、汚土収集運搬委託業務についても、右部署の所管とし、さらに、昭和六一年四月一日からは土木部(土木維持課、昭和六二年度以降は同部土木建設課)の所管となった。
(4) 被告牧本、被告大久保及び同塩村は、昭和五九年度内には、汚土収集運搬委託料の努力目標の設定を約する旨合意し、これを前提に昭和六〇年度における汚土収集運搬委託料の支出のための予算が計上された。その後、被告牧本は、被告備掃社との間で、昭和六〇年五月下旬頃、右合意を内容とする覚書(甲三一、以下、「本件覚書」という。)を交わした。
(5) 被告備掃社は、福山市から、昭和六〇年度における汚土収集搬入委託料として金七七八二万九五〇〇円(搬入台数四二〇七台分)の支払を受けた(前年度から四二〇六万一一〇〇円(搬入台数二七二六台)増)。
(6) 被告牧本、同栗原及び同大久保は、委託料の暴騰((5))に対処するため、昭和六一年度以降については、直営区域を全面廃止し、すべて被告備掃社に委託することとした。
(7) 本件各契約の予定価格(普通地方公共団体が契約を締結する場合にあらかじめ作成する契約価格の一応の基準となる価格)の決定は、被告牧本の命により、福山市建設部長、下水道部長、土木部長、農林部長、環境事業部長が鳩首協議したうえ起案、決定し、総務部長及び企画財政部長が合議して決定し、二名の助役(被告栗原及び同徳重あるいは被告大久保及び同栗原)が会議決定し、被告牧本の決裁を得るという手続で決定され、しかも、予定価格の見積もりを被告備掃社からしか受けなかった。
(8) 被告牧本及び同徳重は、被告塩村が、昭和六一年七月から昭和六三年三月にかけて、被告牧本、同栗原、同徳重その他福山市職員に対し、暴行、脅迫等有形、無形の圧力を加えるなかで、昭和六三年四月二三日、被告備掃社に対し、汚でい収集運搬業務について、昭和六三年度以降も被告備掃社に委託すること、情勢等の変化により委託が不可能になった場合には別途協議することを約する旨の念書(甲二六、以下、「本件念書」という。)を交付した。
(9) 被告備掃社と被告福山市関係者の右のような関係(癒着)により、所管である福山市土木部土木建設課において、汚土収集運搬に関して、何ら対応することができなかった。
(10) 被告塩村は、建設残土の収集搬入(二〇五台分)について起訴された後、福山市に対し、右二〇五台分(以下、「起訴分」という。)に対して支払われた委託料相当額金四二二万三〇〇〇円を支払い、福山市は、右金員を被害弁償の趣旨で受領し、処理した。
(二) 被告福山市関係者の責任
(1) 被告牧本の責任
被告牧本は、本件各契約締結当時の福山市の市長として、福山市から委任を受けた事務の本旨に従って善良なる管理者の注意義務を負っており、福山市の行政事務を法令等に則り正しく執行する権限を有し、また、福山市の助役、収入役等同市の職員に対し、適正に行政事務を執行するよう監督する責任を負う(地方自治法一四七条ないし一四九条等参照)。
しかし、被告牧本は、汚土収集運搬業務の所轄の移管を決定したこと、汚土収集運搬を直営によることにつき何ら問題がないにもかかわらず、被告備掃社一社に対して委託する旨変更したこと、右変更に際しては福山市文書取扱規程に反する本件覚書により、搬入台数に関する裏取引をして被告会社の汚土外物件の収集搬入を容認したこと、予定価格は、本来、契約の目的となる物件又は役務について、取引の実例価格、需給の状況、履行の難易、数量の多寡、履行期間の長短等を考慮して適正に決めなければならず(本件規則三〇条、四一条、四二条)、また、その決定に際しては、二名以上から見積書を徴しなければならないとされている(同規則四三条)にもかかわらず、いずれも遵守しなかったこと、右決定は、上司の処理方針に従って事務分掌上の担当者が起案し、そのうえで稟議するという一般事務処理手続に従わずなされたこと、被告備掃社の汚土収集運搬の手続及び委託料支払についての審査、是正、監督を怠ったこと、本件念書の作成時に被告備掃社が汚土外物件も収集運搬していることを知っていた(汚土外物件も含めた収集物件を表すために、汚土とは別の「汚でい」なる用語が用いられていた。)にもかかわらずこれを容認したこと、被告塩村から起訴分に対する委託料相当額につき被害弁償を受けた際に汚土外物件を汚土と同様に扱うことが違法であると認識していたこと等の事情からすれば、前記違法な支出を漫然と容認した過失がある。
したがって、被告牧本は、昭和六二年一二月二二日から昭和六三年一二月二一日までの違法な公金支出により福山市に生じた損害を賠償する債務不履行責任を負う。
(2) 被告栗原の責任
被告栗原は、本件各契約締結当時の福山市の助役であり、福山市から委任を受けた事務の本旨に従って善良なる管理者の注意義務を負っており、市長である被告牧本を補佐し、その補助機関たる職員の担当する事務を監督する義務を負う(地方自治法一六七条)ところ、被告牧本の違法行為を黙認し、あるいは、本件各契約の内容の決定等に関与し、また、土木部長の違法な手続で作成された支出命令書を決裁し、被告山下に違法な現金の支出を行わしめた過失があるから、昭和六二年一二月二二日から昭和六三年一二月二一日までの違法な公金支出により福山市に生じた損害を賠償する債務不履行責任を負う。
(3) 被告大久保の責任
被告大久保は、昭和六二年度の被告備掃社との委託契約締結当時の福山市の助役であり(1(二))、福山市から委任を受けた事務の本旨に従って善良なる管理者の注意義務を負っているにもかかわらず、前項同様の過失があるから、昭和六二年一二月二二日から昭和六三年三月末日までの違法な公金支出により福山市に生じた損害につき賠償する債務不履行責任を負う。
(4) 被告徳重の責任
被告徳重は、昭和六三年度の被告備掃社との委託契約締結当時に福山市の助役であり(1(二))、福山市から委任を受けた事務の本旨に従って善良なる管理者の注意義務を負っているにもかかわらず、(3)項同様の過失があるから、昭和六三年四月一日から同年一二月二一日までの違法な公金支出により福山市に生じた損害につき賠償する債務不履行責任を負う。
(5) 被告山下の責任
被告山下は、本件各契約当時の福山市の収入役であり、その会計事務を担当し(地方自治法一七〇条二項)、支出負担行為が法令又は予算に違反していないこと、支出負担行為に係る債務の確認等の義務を負う(同法二三二条の四)ところ、汚土収集運搬及び委託料請求手続につき正規の取決めが存在しないことを知り、かつ、福山市の予算に計上されていない費目による請求であるにもかかわらず、委託料についての支出命令に関し、検査、調査等行うことなく支出したのであるから、重大な過失による注意義務違反が認められ(同法二四三条の二)、昭和六二年一二月二二日から昭和六三年一二月二一日までの違法な公金支出により福山市に生じた損害を賠償する責任を負う。
(三) 被告備掃社及び同塩村の責任
(1) 被告備掃社の責任
被告備掃社の作業員は、昭和六二年一二月二二日から昭和六三年一二月二一日までの間、汚土の収集搬入により、適正価格を超える金額の支払を受け、また、汚土外物件あるいは事前指示のない物を収集運搬し(5(一)、(二))、計量場の福山市職員に対し、これらを事前指示を受けて収集搬入した汚土であるものとして計量させ、搬入伝票の半券を騙取し、委託料を請求し、福山市からその支払を受けたのであるから、被告備掃社の取締役であり、実質的経営者である被告塩村の後記違法行為((2))につき民法四四条または七〇九条により不法行為責任を負う。
また、被告福山市関係者が被告備掃社の違法な収集搬入について知っていたにもかかわらず、昭和六二年度及び昭和六三年度の予算を計上したため、被告備掃社の作業員は、違法搬入を続け、搬入伝票半券の交付を受けることにより、被告福山市関係者の背任行為に荷担し、これを幇助したものであるから、この点からも被告備掃社は民法七〇九条により不法行為責任を負う。
したがって、被告備掃社は、いずれにしても、昭和六二年一二月二二日から昭和六三年一二月二一日までに福山市から違法に支払を受けることにより福山市に生ぜしめた損害を賠償する不法行為責任を負う。
(2) 被告塩村の責任
被告塩村は、被告備掃社の実質的な経営者として本件各契約の締結に関与し、被告備掃社の作業員に対し、汚土外物件の収集搬入を業務として命令し、被告牧本らに対し有形無形の圧力を加えて、前項のように備掃社が福山市から委託料を違法に支払を受けることを、被告福山市関係者に容認させたのであるから、被告備掃社が昭和六二年一二月二二日から昭和六三年一二月二一日までに福山市から違法に支払を受けることにより福山市に生ぜしめた損害を賠償する不法行為責任を負う。
7 損害額
(一) 福山市に生じた損害額は、汚土外物件の収集搬入及び指示のない収集搬入(5(一)、(二))については、被告備掃社に支払われた委託料相当額であり、その余の収集搬入(5(三)(1)、(2))については、適正価格を超える分について被告備掃社に対し支払った委託料相当額であるから、次のとおりである。
(1) 昭和六二年度分(昭和六二年一二月二二日から昭和六三年三月三一日まで)
左記合計金三三九八万九七八五円
汚土外物件ないし指示に基づかない収集搬入分
二万〇四〇〇円×一五〇八台=三〇七六万三二〇〇円
その余の収集搬入分
(二万〇四〇〇円−一万四三六九円)×五三五台=三二二万六五八五円
(2) 昭和六三年度分(昭和六三年四月一日から同年一二月二一日まで)
左記合計金一億三七七二万五六一二円
汚土外物件ないし指示に基づかない収集搬入分
二万〇六〇〇円×六四二八台=一億三二四一万六八〇〇円
その余の収集搬入分
(二万〇六〇〇円−一万四三六九円)×八五二台=五三〇万八八一二円
(3) (1)及び(2)の合計
金一億七一七一万五三九七円
(二) 被告牧本、同栗原及び同山下は、本件各契約のいずれにも関与しているから(1(二))、福山市に対して賠償すべき損害額は、金一億七一七一万五三九七円(7(一)(3))である。被告大久保は、昭和六二年度の委託契約の締結に関与したのであるから(1(二))、福山市に対して賠償すべき損害額は、金三三九八万九七八五円(7(一)(1))である。被告徳重は、昭和六三年度の委託契約の締結に関与したのであるから(1(二))、福山市に対して賠償すべき損害額は、金一億三七七二万五六一二円(7(一)(2))である。
(三) 被告備掃社が福山市に対して賠償すべき損害額は、被告備掃社が昭和六二年一二月二二日から昭和六三年一二月二一日までの間に福山市から違法に支払を受けた委託料相当額金一億七一七一万五三九七円である。
(四) 被告塩村が福山市に対して賠償すべき損害額は、被告備掃社が昭和六二年一二月二二日から昭和六三年一二月二一日までの間に備掃社が福山市から違法に支払を受けた委託料相当額金一億七一七一万五三九七円である。
8 監査請求前置
原告らは、昭和六三年一二月二一日、福山市監査委員に対し、本件支出についての地方自治法二四二条一項に基づく監査請求をしたが、平成元年二月一八日、右請求は理由がない旨の監査結果の通知を受け取った。
9 よって、原告らは、福山市に代位して、被告牧本、同栗原及び同山下に対し、各自、福山市との間の委任契約に基づく善管注意義務違反に基づく損害賠償金一億七一七一万五三九七円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成元年四月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による金員の、被告大久保に対し、福山市との間の委任契約に基づく善管注意義務違反に基づく損害賠償金三三九八万九七八五円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成元年四月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による金員の、被告徳重に対し、福山市との間の委任契約に基づく善管注意義務違反に基づく損害賠償金一億三七七二万五六一二円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成元年四月四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による金員の、被告備掃社及び被告塩村に対し、不法行為に基づく損害賠償金一億七一七一万五三九七円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である被告株式会社備掃社については平成元年四月六日から、被告塩村一については平成元年四月八日からそれぞれ支払済みまで民法所定の年五分の割合による金員の支払をそれぞれ求める。
二 請求原因に対する認否
(被告福山市関係者)
1 請求原因1の事実のうち、被告大久保の助役の任期については否認し(右任期は、昭和五八年九月一六日から昭和六二年九月一五日である。)、その余は認める。
2 同2の事実は認める。
3 同3の事実のうち、別紙一において指摘の点及び別表一(収集搬入一覧表)の違法伝票欄(ただし、起訴分は除く。)は否認し、その余は認める。
4 同4の事実は認める。
5 同5(一)のうち、起訴分が違法であることは認め、その余の収集搬入が違法であることは争う。
6 同5(二)の事実のうち、福山市の職員が被告備掃社に対して指示書を一括して事前に交付していたことは認め、その余は否認する。
7 同5(三)(1)及び(2)はいずれも争う。
8 同6(一)ないし(三)及び7はいずれも争う。
9 同8の事実は認める。
10 同9は争う。
(被告備掃社及び被告塩村)
1 請求原因1及び2の各事実は認める。
2 同3の事実のうち、別紙一において指摘の点及び別表一(収集搬入一覧表)の違法伝票欄(ただし、起訴分は除く。)は否認し、その余は認める。
3 同4の事実は認める。
4 同5(一)のうち、起訴分が違法であることは認め、その余の収集搬入が違法であることは争う。
5 同5(二)は争う。
6 同5(三)(1)及び(2)はいずれも争う。
7 同6(一)ないし(三)及び7はいずれも争う。
8 同8の事実は認める。
9 同9は争う。
三 被告らの主張
(被告福山市関係者)
1 本件の公金支出の適法性
本件の公金の支出は、次に主張するどおり、適法である。
(一) 汚土外物件の収集搬入に対する委託料の支出の適法性
福山市は、道路法に基づく市道の管理責任を負っており、同市土木部建設課は、道路及びその法面等の維持管理、道路の環境美化、その保全等のため、環境美化運動の実施にかかる清掃活動にともなう収集物、道路管理上もしくは交通安全上支障のある物件、公共用地(市有地)内の雑草等の物件(不用物件)についても、汚土と同様に収集搬入する必要があり、しかも、汚土と右不用物件の判別は、実際上困難であり、右不用物件の収集運搬の費用は、予算上、汚土の収集運搬と同じ費目(道路維持費及び水路維持管理費)で取り扱われていることからすれば、右不用物件を、本件各契約に基づき収集運搬の物件として、被告備掃社に対して収集運搬についても委託する旨の判断に違法はない。
なお、福山市は、被告備掃社から、起訴分に応じた委託料相当額金四二二万三〇〇〇円を受領し、被害弁済として取り扱って、「雑収入」として処理した。
(二) 汚土収集搬入の指示について
福山市の職員は、被告備掃社への具体的指示に基づいて収集、搬入させており、指示、発注台数と搬入台数の不一致(指示書の不存在)は、現地での確認が目測によるため汚土が実際には指示量以上である場合や発注はしたが即日処理できない場合等に生じたものであり、この場合には、搬入伝票に対応する指示はなされているものの、指示書が交付されていないにすぎず、これに対して追加発注という形で、搬入伝票に基づき事後的に処理しており、問題はない。
(三) 汚土の収集搬入に対する委託量の支出の適法性
(1) 本件各契約を随意契約の方法により締結することの適法性
本件各契約は、その契約内容からみて、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下、「廃棄物処理法」という。)に従うべきであり、地方自治法の適用はない(その意味で、廃棄物処理法は、地方自治法の特別法としての性格を有しているということができる。)。そして、廃棄物処理法が、委託業務の公共性に鑑みて、委託基準として受託者の資格要件、能力、委託料の額、委託の限界、委託契約に定めるべき条項等について詳細に規定し、業務の完全かつ適正を図っていることからすれば、随意契約の方法によるのが原則であると解すべきである。
仮に、地方自治法が適用されるとしても、契約の性質又は目的が競争入札に適しない場合には、例外的に随意契約の方法によることが認められており(地方自治法二三四条一項、二項、同法施行令一六七条の二)、右適否の判断については、地方公共団体の長が、その住民全体の利益または福祉に寄与するか否かという観点から、その裁量に基づき判断すべきであると解される。そして、市町村は、廃棄物処理法及び同法施行令に従い、一般廃棄物の処理及び大掃除の実施についての計画を定め、一般廃棄物の収集、運搬及び処理を行い、一般廃棄物業及びし尿浄化槽清掃業の許可に関する事務を行うこととされ(同法二条九項、別表第二の二)、市町村が一般廃棄物の収集、運搬、又は処分を市町村以外の者に委託する場合には、その基準として、政令で定められた具体的基準に適合する者を選定すれば足りること(同法六条三項後段、同法施行令四条)、委託料につき、委託業務を遂行するに足りる額である旨規定されていることからすれば、本件各契約は、落札価格を複数の者に競わせることを前提とする一般競争入札の方法にはその性質上相容れず、随意契約の方法により締結することが右の趣旨に適合するといえる。
したがって、いずれにしても、本件各契約を随意契約の方法で締結したことにつき、何ら違法な点はない。
(2) 本件各契約の適正等
① 本件各契約における単価の適正について
本件各契約の単価は、一般廃棄物収集運搬委託料原価計算に準じて、土木工事積算基準に従って算出されたのであるから、適正な金額である。
原告主張の適正価格は、平成元年度の指名入札による平均値であるところ、入札制度においては福山市が事前に算出した見積価格と実際の落札価格との間に差異が生じるのは当然であり、しかも、右入札が汚土収集運搬の委託業務について初めて実施されたものであることからすれば、右落札価格が適正価格であるとは言い難い。なお、平成元年度における委託料の適正単価(委託区域ごとの設計単価の平均値)は二万〇九四三円である(A、B、C及びD各区域の設計単価は二万〇六〇〇円、E区域の設計単価は二万〇四〇〇円、ステーションの設計単価は一万八五〇〇円である。)。
② 予定価格の決定手続について
随意契約を締結する場合に契約価格の一応の基準となる予定価格は、契約の目的となる物件又は役務について、取引の実例価額、需給の状況、履行の難易、数量の多寡、履行期間の長短等を考慮して、適正に決めなければならないとされている(本件規則四二条、二九条、三〇条二項)ところ、本件各契約の単価を決定する際、維持課において一般廃棄物収集運搬委託料原価計算に準じて、土木工事積算基準に従って算出したうえ、福山市建設管理部長、下水道部長、土木部長、農林部長、環境事業部長が合議して起案し、さらに総務部長及び企画財政部長が合議検討し、助役二名に回覧し、市長が検討して決定しており、右価格は福山市市議会の承諾も得ているのであるから、本件各契約の決定手続は適正である。
③ 被告備掃社以外の者から見積書を徴しなかった点について
本件規則四三条が随意契約による場合になるべく複数の者から見積書を徴しなければならないとするものの、これは、随意契約の種類、性質、内容等からみて、予定価格を定めるにつき裁量権者の技術的判断だけではまかなえないような専門的知識が必要な場合や価格が適正であるか否かの判断が困難な場合を想定しているのであり、裁量権者の技術的判断によって予定価格を定めることが一般的、客観的に期待できる程度であれば、複数の者から見積書を徴しなくとも本件規則に反するものではない。そして、本件各契約においては、福山市においてすでに一般廃棄物収集運搬委託料についての原価計算基準が適正なものとして定着しており、これに基づき本件各契約の予定単価を決定できるといえる。したがって、本件において、複数の者から見積書を徴しなかったとしても、この点に何ら違法な点はない。
2 責任について
(一) 福山市における事務分掌について
当時福山市は助役二名制であり、福山市助役事務分担規定により、被告栗原が汚土収集運搬業務を担当する建設管理部、土木建設部、下水道に関する事務を担当し、被告大久保は右業務の担当外であったから、被告大久保は、本件各契約につき、何ら責任を負うものではなく、また、被告栗原は、助役として汚土収集事務に関与したのは昭和六〇年一〇月二五日から昭和六二年一二月一七日までであるから、本件の公金支出の期間内の汚土収集運搬業務について、何ら責任を負わない。
(二) 被告福山市関係者の認識について
被告福山市関係者は、起訴分の収集搬入が違法であること及び搬入伝票が事前に一括して交付されていたことについて全く知らず、また、起訴分以外の収集搬入についても、汚土か否かについて確認するのは極めて困難であり、被告備掃社からの報告(搬入伝票等請求関係書類)をそのまま信用するほかなく、被告備掃社の作業員が福山市の指定した場所の汚土である旨偽って汚土外物件を収集搬入したとしても、これに対処することはできなかった。
また、汚土の搬入台数等について、箕沖埋立地において、汚土搬入時に、日時、収集場所、車両番号、運転車名、内容物を記入した搬入伝票をもとに内容物を確認して計算したうえ、その伝票に重量を記入し、検収印を押印し、半券を被告備掃社に交付し、もう一方の半券を一か月分取りまとめて土木建設課に送付し、被告備掃社から委託料の請求の際に提出された半券と報告書及び請求書を照合、確認を行っていた(なお、汚土処理に関する委託料は、予算上、道路維持費と水路維持改良費の二科目からなるため、右照合、確認の手続において、被告備掃社から一か月分の全搬入台数とその委託料を鉛筆で記入した報告書、請求書を提出させ、土木建設課において、搬入台数及び委託料を右二科目に按分し、これを鉛筆書きした報告書、請求書と白紙の報告書、請求書に書き換え、鉛筆書きの部分を消して支出手続を行っていたが、このことは、委託料の支出の適正に影響するものではない。)。
さらに、搬入伝票の事前一括交付は、本件各契約以前から事務上の作業を円滑にするため、従前の所管である下水道部、環境事業部においてとられてきた方法であり、この方法をとっていたことにより何ら問題が生じていなかったのであるから、土木部が右事務手続を踏襲したことに何ら不適正な点はなく、また、右計量の結果が記載されている許可伝票は、土木部建設課へは回覧されないので、同課において、これにより搬入内容を確認することはできない。また、委託料の支出の締日、請求日等が変則的であるのは、被告備掃社の都合によるものである。
以上によれば、被告福山市関係者に過失はない。
(被告備掃社及び同塩村)
1 本件の公金支出の適法性
(一) 汚土外物件の収集搬入に対する委託料の支出の適法性
汚土とは、本件各契約書二条によれば、「町内会等地域住民の奉仕活動その他による用排水路、道路、側溝等のしゅんせつ清掃作業によって収集された汚土、雑草その他の混合物」と規定され、右規定からみれば、汚土の収集依頼者は町内会等地域で生活する団体及び個人たる住民総体であり、その対象となる作業態様は、奉仕活動のみならずその他の清掃作業も含まれ、清掃対象となる公共用物は清掃作業の対象となる道路も含まれ、収集物件は、汚土以外の草やゴミ(場合により家庭ゴミも含まれる。)も含まれることは明らかである。
また、汚土に該当する否かの判断は、福山市の担当職員の現場確認等によってなされ、右職員が汚土に該当すると判断し、被告備掃社に対し収集運搬を指示した場合には、右指示を受けた被告備掃社としては、本件各契約の履行として、収集するよう指示を受けた物を収集して箕沖埋立地に運搬、搬入すべき義務を負うのであるから、被告備掃社が、福山市から、右搬入台数に応じた委託料を受領したことに何ら違法な点はない。
なお、被告備掃社の作業員が、被告らに無断で、訴外有限会社山善組がその私有地内に管理する建設残土を収集搬入した点については、違法ではある(起訴分)ものの、被告備掃社は、これにより福山市に生じた損害について、弁償済みである(後記2)。
(二) 事前指示に基づく収集搬入
被告備掃社は、福山市から指示書の発行を受けないまま収集搬入したことはあるものの、福山市の指示なく収集運搬したことはない。
(三) 汚土の収集搬入に対する委託料支出の適法性(本件各契約締結を随意契約によることの適法性)
この点は、被告福山市関係者の主張1(三)(1)のとおりである。
なお、仮に、本件各契約の締結を随意契約の方法によることが違法であるとしても、被告備掃社は、右につき知り又は知りうべき事情等特段の事情がなかったのであるから、本件各契約は私法上有効な契約である。
2 被告備掃社及び同塩村の責任
右被告らは、福山市からの指示に基づき収集運搬作業を行っていたのであるから、起訴分を除いては、本件各契約に違反する物件を収集搬入しているとの認識はなく、また、被告備掃社は、起訴分の収集搬入に応じて被告福山市から受領した委託料相当額(金四二二万三〇〇〇円)について弁償済みであり、さらに、被告塩村は、被告備掃社の作業員に対し、起訴分の収集搬入を指示したこともなく、右作業員と共謀したこともない。
したがって、右被告ら両名は、福山市に対して、何ら賠償責任を負わない。
四 被告らの主張に対する原告の認否
被告らの主張は、いずれも争う。
第三 証拠
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
理由
一 前提となる事実
1 請求原因2(本件の公金支出)及び同7(監査請求前置)の各事実は、当事者間に争いがない。
2 同1の事実(当事者)は、被告大久保の在職期間の点を除き、当事者間に争いがなく、証拠(乙一ないし三)によれば、被告大久保は、昭和五八年九月一六日から昭和六二年九月一五日の間、福山市の助役であり、別紙二のとおりの事務分掌であったことが認められる。
3 請求原因3の事実(被告備掃社の収集搬入状況及び指示の有無)
(一) 収集搬入状況
争いのない事実及び後記認定事実(二1(一)(5)、2(一)(1)⑤カ、キ、(3))によれば、(1) 被告備掃社の作業員が箕沖埋立地に収集した物件を搬入すると、計量場の職員は(搬入伝票の半券(二枚)に検収印を押印して発行することとなっていたこと、(2) 計量場の職員は、ほとんどの搬入伝票の欄外に、搬入された物件の種類を記載したこと、(3) 搬入伝票に記載された収集場所(町名)には、汚土が排出されない町名(大門町、春日町、御幸町、山手町、箕島町、箕沖町、水呑町、新浜町)が記載されたものもあることが認められ、右事実関係からすれば、少なくとも、搬入伝票において汚土以外の物件が搬入品として記載されているもの及び汚土が排出されない右町名が収集場所(町名)として記載されたものについては、汚土以外の物件が搬入された場合であると認められるから、昭和六二年一二月二二日から昭和六三年一二月二一日までの間の被告備掃社の作業員の収集搬入状況は別表二の1(収集搬入一覧表二)のとおりであり、欄外左側の丸印を付したものが、被告備掃社の作業員により汚土外物件が搬入されたものと認められる。
(二) 指示の有無
後記認定の事実関係(二2(一)(1)⑤ウ、オ、カ、(3)、(二)(2)①、(三)(3)①、3(二))によれば、(1) 被告備掃社に対する指示内容は、後記「受付簿(指示書整理簿)」(甲四六)にまとめられていること、(2) 指示書のなかには、後日に追加作成されたものも含まれていること(具体的には、二3(二)に摘示した指示書のほか、番号の続いていない甲四七の「12―90」ないし「12―133」、甲五〇のうち別紙四の2の様式による昭和六三年三月一八日付指示書「3―109」)、(3) 後記「受付簿(指示書整理簿)」(甲四六)あるいは指示書に記載された収集場所(町名)には、汚土が排出されない町名(大門町、春日町、御幸町、山手町、箕島町、箕沖町、水呑町、新浜町)が記載されたものもあること、(4) 維持係の主任であった北村徹郎(以下「北村主任」という。)は、後記「受付簿(指示書整理簿)」(甲四六)の備考欄を後日記入する際、当該指示書が清掃管理課からの不法投棄物の収集依頼により出されたものであると考えられる場合には、右欄に「清掃管理より」と記載したことが認められ、右事実関係からすれば、右期間における被告備掃社に対する福山市の職員の指示内容は、別表三の1(指示書整理表)のとおりであり、福山市の職員が被告備掃社に対してなした指示のうち、少なくとも、右別表の備考欄に「汚土以外の物件の収集指示」と記載したものは、福山市の職員が、被告備掃社に対して、汚土以外の物件の収集を指示したと認められるものである。
(三) なお、福山市の職員による指示((一))と被告備掃社の作業員による搬入((二))については、両者の関連が明確でなく、搬入されたものがどの指示に基づくものかの対応関係が必ずしも明らかでない。
二 当裁判所の認定した事実
1 本件各契約の内容並びに汚土収集運搬及び委託料請求手続
証拠(甲二五、三三、四四ないし五四、五六の1、2、五七ないし七一、七二の1ないし3、七三の1、2、八三の1ないし5、八四の1ないし5、八五の1ないし5、八六の1ないし5、八七の1ないし5、八八の1ないし5、八九の1ないし5、九〇の1ないし5、九一の1ないし5、九二の1ないし5、九三の1ないし5、九四の1ないし5、九五の1、2、九六の1、2、九七の1、2、九八の1、2、九九の1、2、一〇〇の1、2、一〇一の1、2、一〇二の1、2、一〇三の1、2、一〇四の1、2、一〇五の1、2、一〇六の1、2、一一六の1、2、一一七の1、2、一二六ないし一二九、一四六、一六六、(証人高橋一郎、同北村徹郎)並びに弁論の全趣旨によれば、本件各契約の内容並びに汚土収集運搬及び委託料請求の適正な手続は次のとおりである。
(一) 本件各契約の内容
(1) 福山市は、被告備掃社との間で、昭和六二年四月一日、次の約定で昭和六二年度汚土収集運搬業務を委託する旨の契約を締結した。
一条(委託業務)福山市は、その指定する区域において、福山市の指示する汚土の収集運搬の業務を被告備掃社に委託し、被告備掃社はこれを受託することとする。
二条(定義) 汚土とは、町内会等地域住民の奉仕活動その他による用排水路、道路、側溝等のしゅんせつ清掃作業によって収集された汚土、雑草その他混合物をいう。
三条(再委託等の禁止)被告備掃社は、理由のいかんを問わず第三者に対し、委託業務の全部もしくは一部を委託又は請け負わせ又はこの契約に基づいて生ずる一切の権利義務を譲渡してはならない。
四条(業務の実施) 被告備掃社が委託業務を遂行するために必要な事項は次のとおりとし、すべて福山市の指示に従うものとする。
① 被告備掃社は、汚土を箕沖埋立地へ運搬するものとする。
② 汚土の運搬は二トン積車により行うものとする。
③ 被告備掃社は、運搬中は落下又は飛散しないような方法を講じなければならない。
④ 被告備掃社は、業務に使用する作業員及び使用車両について届け出された作業員、車両以外の使用をしてはならない。
五条(契約期間)契約期間は、昭和六二年四月一日から昭和六三年三月三一日までとする。
六条(委託料)委託料は、一台一回運搬につき金二万〇四〇〇円とする。
七条(委託料の支払方法)被告備掃社は、委託業務を実施した場合は、月毎に委託料請求書及び業務報告書を福山市に提出するものとする。
福山市は、前項の書類を受理した場合は、当該書類を審査し、委託業務がこの契約に適合すると認めたときは、速やかに委託料を支払うものとする。
八条(損害賠償) 被告備掃社は、委託業務の実施に当たり、福山市又は第三者に損害を与えたときは、その損害を賠償しなければならない。
九条(費用の負担義務) 委託業務の実施にかかる一切の費用は、被告備掃社の負担とする。
一〇条(契約の解除) 福山市は、次に該当するときはこの契約を解除することができる。
① 被告備掃社が業務を履行する見込みがないと福山市が認めたとき
② 被告備掃社が福山市の指示に従わないとき
③ 被告備掃社が破産宣告を受けたとき
④ 前各号に該当する場合の他、被告備掃社がこの契約に違反したとき
⑤ 福山市において、この契約締結後の事情の変更、その他特別の必要が生じ、この契約を解除する必要があるとき
一一条(契約解除の成立条件)前条に定める契約の解除は、福山市が被告備掃社に書面をもって通知することによってその効力を生ずるものとする。
一二条(契約等の場合の補償責任の免除) 福山市は、この契約期間満了後または一〇条の規定によりこの契約を解除した場合には、被告備掃社に対しいかなる便宜も供与しないものとし、被告備掃社はこれに対し何らの異議を申し述べないことはもちろん、補償金等その名目の如何を問わず一切の要求はしないものとする。
一三条(疑義等の解決) この契約に定めのない事項及びこの契約に関し疑義が生じたときは、福山市及び被告備掃社の協議のうえ解決するものとし、協議が整わないときは、福山市の決定によるものとする。
(2) 福山市は、被告備掃社との間で、昭和六三年四月一日、昭和六三年度汚土収集運搬業務につき、委託料を一台一回運搬につき金二万〇六〇〇円と改訂するほかは昭和六二年度の場合と同様の約定で、右業務を委託する旨の契約を締結した。
(二) 汚土収集運搬及び委託料請求の手続
(1) 汚土の処理依頼
維持係の職員は、町内会、衛生委員、土木常設委員等から、電話又は直接口頭によって、汚土処理の依頼を受けると、担当者(北村主任、高橋一郎、(昭和六二年四月一日から昭和六三年三月三一日まで担当、以下、「高橋」という。)、森田洋史(昭和六三年四月八日から担当、以下、「森田」という。))は、住宅地図により、当該汚土の所在場所を確認する。
(2) 受付及び現場確認
維持係の担当者は、受付簿(別紙三)に、受付年月日、発生場所、地元代表者、受付者及び指示事項(指示月日及び指示台数)を記入し、汚土所在場所に赴き、内容物(汚土か否か)を確認するとともに、その収集に必要な車両台数を目測により見積もり、位置図(住宅地図の写しに集積場所を記入したもの)を作成する。
(3) 指示及び発生
維持係の担当者は、指示書(別紙四の1、なお、番号は、最初の数字が指示月、後の数字がその月の通算番号を示し、月毎に続き番号になっている。)に、年月日、収集場所、運搬する処分地、処理期限日、備考欄にそれぞれ記入したものを二通作成し(備考欄には前項の見積台数)、それぞれに位置図一枚を添付し、山﨑廣成土木部建設課長(昭和六一年四月一日から土木部建設課長に就任、以下、「山﨑建設課長」という。)に提出し、決裁を受ける。
そのうえで、担当者は、被告備掃社の作業員に対し、指示書(位置図一枚添付)一通とともに、現場確認において見積もった台数分の搬入伝票(別紙五)に必要事項を記入して、交付する。
もう一通の指示書(位置図一枚添付)は、受領者から、収集搬入を承諾する旨の署名及び受領年月日を受けたうえ、控えとして福山市役所に保管される。
(4) 収集及び運搬
被告備掃社の作業員は、指示書及び位置図に基づき、発注された汚土を収集し、箕沖埋立地に搬入する。なお、作業員及び使用される車両は、あらかじめ福山市に届け出ることになっている。
(5) 計量確認
被告備掃社の作業員は、搬入伝票に、収集場所(町名)、搬入年月日、搬入時刻、車両の登録番号及びその運転者名を記入し、計量場において、福山市職員により計量確認を受けた後、搬入伝票に検収印を受ける。搬入伝票の半券の一方は、計量場にて保管され、月毎にとりまとめられ、維持係に送付され、他方は、当該作業員に交付される。
計量場の職員は、右計量の結果につき、許可伝票(別紙六)に日付、時刻、回数、車番、分類種別(搬入形態(六種類)に分かれている。)及び搬入物の種類(一般廃棄物(五種類)と産業廃棄物(五種類)に分かれており、汚土は、「1一般廃棄物」中の「4汚土」に該当する。)、総量、風袋及び正味量を打刻する。右許可伝票は、清掃管理課で保管される。
(6) 委託料の請求
被告備掃社は、支出命令書(請求書と領収書が一体となったものである、別紙七)、業務報告書及び搬入伝票の半券を、毎月維持係に提出して委託料を請求する(月末締め翌月払い)。
なお、被告備掃社から、汚土処理報告書が随時提出される。
(7) 伝票照合
維持係の担当者は、被告備掃社からの委託料請求に対し、搬入伝票の各半券(被告備掃社から提出されたものと箕沖埋立地から送付されたもの)を確認し、その車両台数と業務報告書記載の台数を照合し、さらに、業務報告書の車両台数と指示台数とを照合する。
(8) 支出伺書及び支出命令書の起案
担当者は、委託料請求書、委託業務報告書、伝票確認書(搬入伝票を確認した旨の文書)をもとに、搬入伝票の枚数に応じて委託料を算出し、支出伺書及びこれに対応する支出命令書を起案し、山﨑建設課長(昭和六一年四月一日から土木部建設課長)、岡崎定之輔土木部長(同年四月一四日に就任、以下、「岡崎土木部長」という。)が決裁する。
(9) 予算整理
建設管理部監理課庶務係は、山﨑建設課長及び岡崎土木部長の決裁を受けた関係各文書((8))を決裁し、さらに、監理課長、建設管理部長の決裁を経て、右庶務係において、予算事務支出負担行為整理簿へ記入する(なお、汚土収集運搬に関する委託料の支出科目は、昭和六三年度から道路維持費及び水路維持改良費の二科目である。)。支出伺書は、土木部長に返され、支出命令書は、出納室に回付される。
(10) 支払
福山市出納室長は、前項の庶務係から送付された支出命令書の内容を審査し、収入役の決裁を得て、被告備掃社に対し、当座預金口座(広島相互銀行福山南支店〇〇一八二七五)への振込の方法により支払う。
2 被告備掃社と福山市の関係
証拠(甲三の1ないし4、六、七、九、一一、一四ないし四四、四六ないし五五、五六の1、2、五七ないし七一、七二の1ないし3、七三の1、2、七四ないし七八、八二、八三の1ないし5、八四の1ないし5、八五の1ないし5、八六の1ないし5、八七の1ないし5、八八の1ないし5、八九の1ないし5、九〇の1ないし5、九一の1ないし5、九二の1ないし5、九三の1ないし5、九四の1ないし5、九五の1、2、九六の1、2、九七の1、2、九八の1、2、九九の1、2、一〇〇の1、2、一〇一の1、2、一〇二の1、2、一〇三の1、2、一〇四の1、2、一〇五の1、2、一〇六の1、2、一〇七の1、2、一〇八の1、2、一〇九の1、2、一一〇の1、2、一一一の1、2、一一二の1、2、一一三の1、2、一一四の1、2、一一五の1、2、一一六の1、2、一一七の1、2、一一八の1、2、一一九の1、2、一二六ないし一四三、一四六ないし一四八、一五三ないし一五八、一六〇ないし一六三、一六五の1ないし4、一六九、乙一ないし三、証人高橋一郎、同森田洋史、同北村徹郎、同山﨑廣成、同岡崎定之輔、被告徳重照本人、同牧本幹男本人、同塩村一本人)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一) 福山市の汚土等廃棄物処理態勢
(1) 汚土収集運搬(駅家町、加茂町及び山野町を除く。)
① 福山市役所における組織、土木部における担当分掌
組織(昭和六二年度から昭和六三年度)及び被告大久保と同栗原が助役であった当時の両者の事務分掌は、別紙二のとおりである。
② 汚土収集運搬委託業務の所管の変遷
被告塩村は、福山市役所において、様々な無理な要求をしたり、非常識な言動、振る舞いをするということで、汚土収集運搬委託業務を担当する部署(昭和五五年度当時は環境事業部)において不満が生じており、昭和六〇年度の予算編成のころ、環境事業部からは、土木部に汚土収集運搬委託業務に関する予算を移すようにとの要求が発せられ、これに土木部では反対するという問題が持ち上がった。
そこで、旧建設局(局制度は昭和五九年度から廃止)所属の各部(建設管理部、土木部、都市部、下水道部)の部長が右問題について協議した結果、汚土収集運搬委託業務については、旧建設局所属各部の持ち回りによること、最初は下水道部が担当することとなり、被告塩村の福山市役所における言動を知っていた市長(被告牧本)は、当時の助役と検討し、現場の右要望を容れて、昭和六〇年四月一日から下水道部工務課に所管替えとする旨決定した。その際、特に引き継ぎ及びそれに伴う問題点の検討はなされなかった。
その後、昭和六一年度の予算編成の際(昭和六一年初め)、汚土収集運搬委託業務の所管を、下水道部から土木部に所管を移すよう要求が持ち上がり、市長(被告牧本)及び助役等上層部は、右要求を容れて、再度所管替えを決定し、下水道部から土木部に十分な引継がなされまいまま土木部維持課の所管となった(契約書等の書類関係はそのまま使用しているが、事務手続について引継が不完全で、土木部の職員の北村主任が、土木部に所管替え後の昭和六一年五月か六月ころ、事務処理について下水道部工務課長(河原)に、汚土業務について聞きに行ったことがあった。)。
さらに、昭和六二年四月一日には、組織変更により土木部建設課維持係の所管となった。
③ 契約締結の手順、内容等
昭和五五年度以降の汚土収集運搬委託業務についての契約締結の手順、契約内容等は、次のとおりである(なお、その変更に際しては、住民のニーズや問題点の検討はなされなかった。)。
ア 昭和五五年度から昭和五九年度まで(衛生局環境事業部清掃管理課管理係所管)
右係の担当者が契約書等を起案し、係長、課長、部長、局長の決裁を受け、財政課長、財政部長、総務部長を経て、担当助役、市長の決裁を受け、契約後、局長ないしは部長までの決裁を受けた。
その結果、汚土収集については、ごみとは別の扱いとし、業者(被告備掃社)に委託するととし、昭和五五年八月二三日、随意契約の方法で委託契約を締結され、委託料は、毎月金二〇〇万三〇〇〇円(但し、月一五〇台を超える場合または月一〇〇台未満の場合には増額または減額することになっていた。)であり、登録台数三台(内一台は予備車)、届出作業員は四名(内一名が作業責任者)であった。なお、右業務委託により支払われる委託料の予算科目は、衛生費清掃費の塵芥処理費であった。
昭和五六年度以降は、汚土収集運搬委託契約前(昭和五六年度の場合は二月三一日付、昭和五七年度以降は三月下旬から末日まで)に、被告備掃社は、福山市役所にし、使用車両(予備車一台を含めた三台)及び現場作業員名簿(昭和五八年度までは四名、昭和五九年度は五名、但し、いずれも現場責任者一名を含む。)を記載した各別紙の添付された汚土処理委託申請書に、被告備掃社の定款を併せて提出する扱いになった。
委託料については、昭和五九年度まで、汚土収集運搬につき、同様の委託料設定方法であった(ただし月額委託料は、別表四の1(搬入台数及び委託料額、委託料支払額推移表)のとおり。)。
イ 昭和六〇年度(下水道部所管)
汚土収集運搬委託業務が、旧建設局所属各部で持ち回りにすることとなり(前記②)、将来、汚土収集運搬委託業務がどの部の所管になるか不確定であったことから、関係部である建設管理部長、下水道部長(当時は被告徳重)、土木部長、農林部長は、連名にて、すでに土木部内において決定された単価に従い契約締結伺いを起案した(甲一一四の2)。右起案は、「昭和五九年度環境事業部において、固形状一般廃棄物収集運搬委託区域内(加茂山野町及び駅家町を除く。)の『ごみ』でない『町内清掃汚土』の処理について(株)備掃社と収集運搬委託契約を締結して処理しておりましたが、道路側溝、用排水路等からの排水された汚土等であり、管理者責任で処理する様政策的決定がなされたため、昭和六〇年四月一日より下水道部工務課、土木部維持課(現維持係)、農林部耕地課において、委託業務の執行を行う」として、右区域図面を添付のうえ、中島総務部長、小野参事、収入役、助役(被告大久保)を経て、同年三月三一日、市長(被告牧本)の決裁を受けた(証人山﨑廣成は、設計単価の決定に具体的に関与し、積上方式により計算したと供述し、証人岡崎定之輔は、土木工事積算基準に基づいて計算したと供述するものの、設計単価の算定の際に作成すべき設計書、仕様書等は添付されていない。)。その後、被告牧本は、被告備掃社から見積書(昭和六〇年四月一日付)を受け、同日付で被告備掃社との間で委託契約を締結した(甲一一四の1)。
なお、単価が、台数及び回数を基準とすることに変更され、直営区域についても、ほとんど被告備掃社に委託することになった(別表四の1の「搬入台数及び委託料額、委託料支払額推移表」参照)。
ウ 昭和六一年度(土木部)
建設管理部長、下水道部長、土木部長、農林部長、環境事業部長が契約締結伺い(単価も含む。)の起案を行った。その内容は、担当課が右三課に清掃管理課を加えた四課になったほかは同様である。これに契約書の案(前年度と同内容)を添付し、総務部長及び企画財政部長(財政、予算等を統括)の合議後、助役(二名)を経て、昭和六一年四月一日に市長(被告牧本)の決裁を受けるとともに(甲一一五の2)、従前どおり被告備掃社からの見積書(同日付)を併せて、右同日建設管理部監理課契約係において委託契約を締結した(甲一一五の1)。
なお、昭和六一年度から、汚土収集運搬の直営制度をすべて廃止してすべて被告備掃社に委託することにした(単価は別表四の1の「搬入台数及び委託料額、委託料支払額推移表」のとおり。)。
エ 昭和六二年度以降
前示五部長は、昭和六一年度以降、過去の契約書の写しを利用して契約締結の伺いを起案し、右同様に、助役(被告栗原、同大久保、同徳重)及び市長(被告牧本)から決裁を受け(甲一一六の2、一一七の2)、従前どおり被告備掃社からの四月一日付見積書を併せて、同日付で建設管理部監理課契約係において委託契約を締結した(甲一一六の1、一一七の1)。
なお、使用される車両の届出及び現場作業員名簿の提出がなされなくなった(但し、昭和六三年度の契約に際しては、現場作業員名簿(二八名)のみ提出された。)。
④ 被告牧本における予定価格決定
被告牧本は、前示五部長で起案し、収入役、助役の決裁を得た価格(設計単価)を記載した稟議書を開封して決裁し、右価格を適切と考え、予定価格として予定価格調書に記入し、押印のうえ封印し、建設管理部に渡しておく。建設管理部監理課契約係は、委託契約を締結するに際、予定価格調書を開封し、右予定価格と被告備掃社の見積価格とを対比し、見積価格が予定価格以下であれば、委託契約を締結することとした。
見積価格と予定価格はほぼ一致していた(昭和六〇年度予定価格金一万八五三〇円、契約価格金一万八五〇〇円、昭和六一年度予定価格金二万〇三五七円、契約価格金二万円、昭和六二年度予定価格金二万〇四〇〇円、契約価格右同額、昭和六三年度予定価格金二万〇七〇〇円、契約価格金二万〇六〇〇円)。
⑤ 事務手続
ア 受付
維持係の職員は、汚土収集の依頼を電話等口頭により受けたが、受付時には、受付内容を受付簿に記録として残していなかった。
イ 現場確認
維持係の担当職員は、確認した場所の地図の写しを持って行って、地図中の汚土の所在場所に印を付ける(昭和六二年四月一日から昭和六三年三月三一日までは高橋が、同年四月八日からは臨時職員の森田が担当であった。)。
森田は、最初、二、三回北村に同行してもらってから後は1人で現場に赴き、台数を適当に決め(目測による台数見積)、一か所に積まれている場合には丸印を、道路に沿って出されている場合にはその区間を直線で、地図に印を付けていた。
ただし、汚土の定義について、契約書に定められている定義(1(一)(1)の二条)からは汚土とそれ以外の物(汚土外物件)の区別が困難であり、被告牧本は、このことを知っていながら、現場の職員の間で解釈を統一しなかったため、現場の職員は、汚土について勝手に解釈しており、それぞれに食い違いが認められた(例えば、現場確認等を実際に担当していた森田は、汚土の範囲について説明を受けたことがなく、草やごみが汚土に含まれないとは知らなかったし、北村主任は、町内清掃により排出された物が汚土であるとの認識しかなく、また、山﨑建設課長は、道路に転がっている缶についても、汚土として一緒に収集できる扱いとする等契約書の定義からは汚土に含まれない物についても汚土に含まれるものと認識していた。)。
ウ 指示書作成
現場を確認した担当者は、あらかじめ山﨑建設課長の記名押印済みの指示書(右記名押印は山﨑建設課長以外の職員によりなされており、山﨑建設課長自身は関与していない。)に、月別の通し番号、日付、収集場所(町名)、台数を記入し、北村主任に提出する。搬入台数については、一日で搬入できるかどうかは考慮せず、汚土の量に応じた総台数を一枚の指示書で作成することになっており、また、複数の町にまたがっている場合に、そのうちの一つの町しか記載しないことがあり(甲四七の指示書番号「12―71」)、さらに、現場確認の結果、汚土でないことが判明した場合でも、高橋は、上司であった山﨑建設課長、塩飽日出夫維持係長(以下、「塩飽係長」という。)、北村主任の了承のもとに、指示書を発行していた。
なお、森田は、指示書作成について、具体的な指導等を受けていなかったので、実際に汚土に関する業務を担当し始めた昭和六三年四月八日から五月一二日までは位置図のみを渡し、指示書を交付しておらず、被告備掃社の社員からの指摘により初めて指示書を出すということを知り、高橋から作成方法を教えてもらい、昭和六三年六月分から指示書を作成するようになった(森田は、同月一三日から指示書を作成した旨供述するが、指示書は月毎に続き番号になっていることから、月の途中から作成することはできないはずである。)。
なお、昭和六三年四月分のすべての指示書及び五月分の一部の指示書(作成日付が同月一日から一二日までのもの)は、後日、汚土問題が議会で取り上げられてから作成されたものである(後記3(二))。
エ 指示書の交付
担当者(北村または森田)は、被告備掃社に対し、指示書が出ているので取りにくるよう連絡を入れ、被告備掃社の作業員のなかで責任者的立場にある者(時期により、田中保、長谷川治雄、吉貝孝博のいずれか)が指示書を取りに来ることになっていた。右作業員は、被告備掃社の事務所に戻って作業計画を他の作業員に伝えていた。
オ 「受付簿」(甲四六)の作成
指示書作成後、担当職員(森田等)は、指示書を見ながら、別紙三の定型用紙に、指示内容、具体的には、No欄には指示書番号を、受付年月日欄には年月日を、発生場所欄には発生町名を記入し、まとめられた指示書の冒頭に添付した(以下、「受付簿(指示書整理簿)」という。)。「受付簿(指示書整理簿)」の保管は、森田に任されており、山﨑建設課長ら上司がチェックすることはなかった。
なお、実績台数(搬入台数)の欄は、被告備掃社からの搬入報告書類を見て後日記入しており、「受付者」欄には、ほとんど記入することなく、発生町名からみて収集物件が不法投棄物と思われる場合(春日町、山手町、箕島町、水呑町、新浜町、箕沖町が発生場所として記載されている場合)には、備考欄に、「清掃管理より」と記載することがあった。
カ 収集
被告備掃社の作業員は、スコップ等の手作業により積み込んでいたが、その際、福山市の職員は、右収集時に立ち会うことにはなっていなかった。被告備掃社の作業員は、実質的な経営者であり、その荒々しい言動から怖れていた被告塩村から搬入台数の増加に努めるよう圧力をかけられ、不法投棄物、草を上から振り掛けた土、建設残土等の汚土外物件も収集していた。具体的には、ステーションと呼ばれる一時的な集積場(大門町、春日町、御幸町、山手町)、不法投棄物の放置場所(春日町、山手町、箕島町、水呑町、新浜町、箕沖町)、人家が少ないあるいは工業地帯であり、住民の清掃活動により排出される汚土が出されるはずのない場所(春日町、水呑町、箕沖町、新浜町)からも汚土外物件を収集していた。
キ 搬入
被告備掃社の作業員は、搬入伝票をトラックに常備しておき(搬入伝票は、福山市から事前に一括して交付を受けて被告備掃社の事務所に備え付けられており、同社の作業員が自由に持ち出せるようになっていた。)、搬入の際、搬入時間、車両番号、収集町名、収集物を書き込み、箕沖埋立地(福山市環境事業部南部事業所)の計量場で計量確認を受けていた。右計量場の職員は、内容物等のチェックを行わないまま搬入伝票に検印して、被告備掃社の作業員に右伝票の半券を交付しており、許可伝票も、区分欄(搬入物件)を白紙のまま環境事業部に送付していた。
ク 委託料請求等
被告備掃社の作業員は、汚土処理報告書及び作業日報に記入し、搬入伝票の半券とともに被告備掃社の担当事務員であった杉原幹子(昭和六三年六月一日から)または岡本三保子(昭和六三年三月から八月まで)に渡し、右担当事務員はこれらを照合、確認したうえ、日にちごとに、搬入日時、場所、運転車名、車両番号、台数等を大学ノートに転記してまとめたうえ、搬入伝票を保管していた。
杉原幹子は、搬入台数が九〇〇台を超えると福山市に対して委託料を請求することとなっていたことから、搬入台数が八〇〇台近くなると、被告塩村に対し、締日をいつにするか指示を求め、被告塩村は、被告備掃社に安定した収入が入るように締日を決め、杉原幹子は、その締日に基づいて、委託料請求の際に提出する書類(搬入伝票、請求書、業務報告書、支出命令書(請求書欄))を作成し、各書類を茶封筒に入れてとりまとめ、月初めに福山市役所に提出した(別表五「委託料請求及び支出手続表」)。
搬入伝票は、請求月、車両台数、委託料合計を記載した表紙を添付して束ね、請求書及び業務報告書は、各二部(被告備掃社の社名印(ゴム印)を押印して搬入伝票の半券から鉛筆で転記したもの及び右社名印のみのもの)作成することとなっていた。すなわち、請求書については、金額、内訳、一車当たりの単価、車数、委託金額を鉛筆で記載し、業務報告書については、日にち及び「箕沖」と書いた欄に台数を鉛筆で記入する。支出命令書(事前交付)は、請求者欄に社名印、代表者印(被告塩村しか開錠できない大金庫に保管されており、被告塩村が必要な都度大金庫から出して使用していた。)を押印し、振込欄に振込用の口座番号を記入した。
ケ 支出手続
北村主任は、毎月初めに被告塩村が決めた締日に基づいて算出された委託料(前記ク)の請求関係書類の提出を受けると、搬入伝票の総数を数え、報告書記載の搬入台数総数と一致しているかどうか照合し、一致していれば、予算科目の消化を考えて二科目に適当に割り振って(証人北村徹郎は、右二科目の比率は七対三であった旨供述するが、実際にはそのような比率になっていない。)、伝票確認書を作成した(別表五「委託料請求及び支出手続表」)。
その際、北村主任は、一日当たりの搬入台数については、総数が一致していれば、業務報告書の一日当たりの集計を信用して確認せず、また、搬入伝票の記載事項(搬入物、重量等)についても特に詳細に確認することはなく、不審点(汚土外物件の搬入、場所的に町内清掃が行われない地域、例えば人家の少ない春日町、水呑町、工業地帯の箕沖町、新浜町等が収集場所になっているものや重量が特に少ないもの)や記入漏れについても、特に気に留めず、上司に報告等することはなかった。
なお、北村主任は、昭和六三年五月下旬から、汚土に関する業務につき担当を外され(後記(三)(4)②イ)、北村に替わって山﨑建設課長が担当することになったが、実際には、北村主任が、山﨑建設課長の名で、支出負担行為伺いや支出命令書を起案しており、山﨑建設課長は、搬入伝票等支出関係書類に目を通していたものの、内容的にチェックしていなかった。
支出手続(書類照合及び決裁)、は請求の日から早い場合には翌日、遅くとも八日後には委託料支出がなされていた(別表五「委託料請求及び支出手続表」)。
(2) 駅家町における汚土収集運搬の状況について
福山市駅家町においては、町民が汚土の積載まで行っているため、福山市が負担すべき委託料は運搬料相当額のみであり(昭和六三年度において、収集運搬が一車につき八四〇〇円、清掃処理等一日につき一一万五〇〇〇円、平成元年度において、収集運搬が一車につき一万二九七七円、清掃処理一日につき三万五一〇一円)、契約期間も汚土の多い時期(五月上旬から六月上旬)に限定されていた。
(3) 汚土外物件(不法投棄物等)の収集態勢の遅れ
道路や水路に散乱している紙、缶、瓶や不法投棄物、建設残土等の汚土外物件が排出されると、福山市としてはそのまま放置しておくわけにはいかないという理由から、処理方法(別途手続による業者への委託、直営)、予算等につき別途検討されないまま、汚土外物件についても、汚土に含めて被告備掃社に収集運搬を指示することにより処理されていた。
特に、不法投棄物(排出場所は、主として水呑町洗谷、新浜町、箕沖町等)については、環境衛生部清掃管理課は、昭和六二年ころ、不法投棄物の収集を土木部に依頼したが、土木部では、山﨑建設課長、塩飽係長及び北村主任は、維持係の担当業務は町内の奉仕活動により排出された汚土に関するものであり、不法投棄物を汚土として収集することに疑問をもち、一か月程度放置した後、山﨑建設課長において、岡崎土木部長、中島総務部長と協議したり、被告徳重に対し、不法投棄物を汚土として取り扱うことの是非について相談した。被告徳重は、道路管理者としては、不法投棄物等を放置すべきでないとして、これらについても、汚土に含めて収集をするよう決定したため、以後、不法投棄物につき、清掃管理課が依頼し、場所を示す地図をもとに、現場確認をすることなく、指示書を出していた。
(二) 被告塩村の圧力と福山市の対応
(1) 被告塩村の福山市行政への参入、圧力
① 被告塩村は、昭和四四年ころから、ごみの収集運搬について、福山市からの委託を希望していたが、福山市は、当時のごみの排出量からは委託業者を増やす状況になかったために、委託しなかった。
その後、福山市は、昭和四六年一二月、直営区域と委託区域の再編成に伴い三業者を委託業者として増加したが、被告備掃社は、政令で定める委託基準の一つである経験を欠いていたため、その際にも被告備掃社を委託業者に選定しなかった。しかし、被告塩村は、福山市に対し、将来委託業者を増やす際には、被告備掃社を優先的に委託業者に選定するよう、強行かつ執拗に要求していた。
② 被告塩村は、福山市清掃センター所長から、昭和四七年五月一六日、廃棄物収集運搬につき迷惑をかけたことについて謝罪する旨の念書(甲二八)を、また、同月一八日、採算がとれなければ辞めるようにと被告塩村に発言したことにつき謝罪する旨の詫び状(甲二九)を、それぞれ徴した。
③ 被告塩村は、昭和五〇年五月七日、福山市役所において、当時福山市競馬事務局長であった被告栗原を殴りつけた。
④ 被告塩村は、福山市助役、同市衛生局長から、昭和五五年七月五日、福山市議会議員の立会いのうえ、昭和五五年八月一日から汚土収集について一車当たり月九七万円で委託する旨約する確認書(甲二七)の交付を受けた。
⑤ 昭和五五年当時の福山市長と被告備掃社は、同年八月二三日、福山市議会議員の立会いのもとに、「昭和四四年以来の懸案の解決」(被告備掃社を委託業者に選定してこなかった経緯、前記①)と称して、被告備掃社に対するゴミ収集委託に関する一切の問題は、汚土収集運搬委託契約の締結をもって解消し、被告備掃社は、将来にわたり、ゴミ収集委託契約に関する要求をしないこと、福山市が一般廃棄物処理業者を許可するに当たって、被告備掃社は、将来の経緯を問わず一切異議をはさまないこと、ゴミの有料収集につき、福山市は法令違反等特に必要と認めるものを除き、原則としてこれに介入しないこと等を合意する旨の確認書(甲三二)を作成した。
⑥ 当時の助役であった川邊一は、汚土収集運搬業務の所管替えが問題となっていた昭和六〇年の初めころ、右問題についての協議の席上で、新浜処理場ケーキにつき、下水道設備の完備により、ケーキの排出量が減少するため、業者(被告備掃社)に対する減車補償を検討するよう提案した。
⑦ 被告塩村は、下水道部が汚土収集運搬業務の所管となり、当時の下水道部長が被告徳重であったこと及び昭和六〇年度の汚土収集委託契約の締結の遅れやその契約内容に不安を抱き、昭和六〇年五月下旬ころ、覚書の交付を執拗に要求したため、被告大久保は、その作成にかかる原案を小野参事と協議のうえ成案とし、被告牧本の市長印(公印)を押印した(被告牧本は、後記各念書(甲三〇、三一)自体は確認していないが、その内容については事前に報告を受けている。)。その内容は、被告牧本と同備掃社代表者との間で、昭和六〇年四月一日付で、新浜処理場ケーキ搬出業務委託につき、今後の契約を円満に行う旨約束する覚書(甲三〇)及び昭和六〇年度汚土収集運搬について、「昨年実績車数(三八二〇台)について双方努力する。」こと及び「今後契約に当たって双方円満に行う。」ことを合意するという覚書(本件覚書、甲三一)であった。
⑧ 被告塩村は、昭和六二年六月八日頃、福山市役所の被告大久保の部屋において、清掃管理課長の川崎良秋から、直営の機械車の乗車人員についての説明を受けていたところ、福山市の対応に対する不満から、右川崎良秋に対し、コップに入った麦茶を顔面等に掛けた。
⑨ 被告塩村は、昭和六二年一二月一八日、助役に就任した被告徳重に対して、福山市議会議員や報道関係者の面前で、「なんでお前が助役になるんなら。お前なんか辞めてしまえ。お前に助役の資格はない。すぐ辞めぇ。」等繰り返し怒鳴った。
⑩ 被告徳重は、昭和六三年一月初めころ、被告塩村と福山市内の百貨店で偶然出くわした際、被告塩村から、多数の買物客の面前で、「徳重、お前は辞めぇ。何でお前が助役なら。お前なんか助役になる資格がなかろうが。」等繰り返し怒鳴られた。
⑪ 被告塩村は、昭和六三年一月二〇日頃、被告牧本、同徳重らが昭和六三年度の予算査定が行われている社会福祉会館に向けて拡声器で、「徳重助役は辞めろ。市長(被告牧本)も辞めろ。徳重を助役にした責任は市長も一緒にとれ。」等叫んだうえ、予算査定会場である右会館四階に乗り込み、他の職員の面前で、「市長、お前は何なら。こがな者(被告徳重)を助役にして。こがな者が予算をしても判りゃーせまいが。なんでこがいな者を助役にしたんなら。辞めてしまえ。市長も一緒に辞めてしまえ。」等怒鳴りつけた。
⑫ 被告塩村は、汚土収集運搬委託契約及び新浜処理場ケーキ搬出委託契約について、随意契約の方法によることが不当であると福山市議会で問題とされたため、被告牧本らにおいて、この点についての見直しを検討していたことから、次年度からの契約を打ち切られるのではないかと危惧し、昭和六三年四月二三日、福山市役所に赴き、被告牧本及び同徳重に対し、「これからもわしに続けさせぇ。」等述べ、テーブルを数回叩き、これからも被告備掃社に委託することを書面にすること、書かなければ右被告らを福山市役所にいることができないようにしてやる等繰り返し怒号をして、念書を書くよう強要したため、被告牧本及び同徳重は、今までの被告塩村との関係(経緯)から考えて断るとどのようなことをされるか分からないと思い、被告備掃社に対し、昭和六三年度以降についても汚土収集運搬業務及び新浜処理場ケーキ搬出業務につき被告備掃社に対して委託すること及び情勢等の変化により委託業務が不可能になった場合は、相互信頼を基本に補償を含め別途協議し、解決することを約束する旨の念書(本件念書、甲二六)を作成した。
⑬ 山﨑建設課長は、昭和六三年一二月五日、被告徳重から助役室に呼ばれて出向いたところ、右助役室には、被告牧本、同徳重、立神博行下水道部長及び被告塩村が同席しており、山﨑建設課長が入室すると、被告牧本は、部屋を出た。
被告塩村は、山﨑建設課長が西栄建設に対し、昭和六三年一〇月に委託した鷹取水路(福山市草戸町一丁目)の水路堀浚工事及び同年一一月に委託した道路改良工事(同町草戸一号線)の担当者であることを確認したうえ、右各工事は汚土の収集運搬とは関係ないにもかかわらず、テーブルを数回叩き、足で蹴りつけ、山﨑建設課長に対し、右工事により被告備掃社が収集すべき泥を他の者に収集させている旨の言いがかりを付けて、建設課長の職を辞するよう繰り返し強要した。この間、被告徳重及び下水道部長は、被告塩村をなだめながらも、同人の怒りが収まるのを待っている状態であった。
山﨑建設課長は、右の件につき、岡崎土木部長に報告したが、同部長はさして驚く様子もみられなかった。
二、三日後、被告徳重は、山﨑建設課長に対し、右工事に伴って排出される泥を被告備掃社に取らせるよう指示したため、山﨑建設課長は、西栄建設に対し、排出された泥を一旦御幸町のステーションに運び込ませ、それを被告備掃社に運ばせることとした。
(2) 被告塩村の汚土収集運搬業務に対する圧力
① 指示書の要求
被告塩村は、交付された指示書の枚数が少なかったり指示書が交付されないと、福山市役所に電話し、山﨑建設課長に対して、もっと指示書を出せ、泥土がなければ探しに行け等怒鳴りつけてきたため、山﨑建設課長は、森田に対し、汚土を探して指示書を出すように指示したり、北村主任や塩飽係長は、森田に対し、汚土がなければ御幸町や春日町のステーションの指示書を出すよう指示していた。
② 搬入伝票の事前一括交付
下水道部工務課が汚土収集運搬委託業務の所管であった時期に、汚土収集運搬委託業務の担当者が、被告備掃社に対し、指示台数と同数の搬入伝票を交付したところ、このことに不満をもった被告塩村が、総務課に怒鳴り込んできたため、総務課の意向で、以後、事前に一回当たり数百枚の搬入伝票(山﨑建設課長印押印済み)を交付するようになった。その後、土木部では、汚土収集運搬委託業務の移管を受けた後、岡崎土木部長は、右扱いで何ら問題が生じていないと認識してそのまま続けており、北村主任も、以前から一括交付しているので渡すよう森田に指示し、下水道部での事前一括交付の扱いを引き継いだ。
被告牧本及び被告徳重(下水道部長在任中及び助役就任後)は、搬入伝票が一括交付されるようになったことにつき、放置していた。
(3) 福山市側の姿勢
被告福山市関係者及び汚土収集運搬業務の現場担当者は、被告塩村の要求を断って危害を加えられることを恐れ、被告塩村の前記のような各種要求(圧力)をそのまま受け入れていた((1)、(2))。
また、中島総務部長は、汚土収集運搬委託業務について担当外であるにもかかわらず、被告備掃社からの請求関係書類を受け取ることがあったり、総務部長の決裁を本来要しない支出伺書について、昭和六三年五月六日(昭和六三年四月二三日付念書(甲二六)交付後)に起案された支出伺書(甲八六の1)については目をとおし決裁をする等汚土収集運搬委託業務に関与するとともに、被告牧本に被告塩村を紹介したり、被告塩村と懇意であり、両者の関係は、福山市役所内や福山市議会においても、よく知られており、福山市職員としては、被告塩村の意向を受けた中島総務部長の意見を無視することはできない状態であった。
(三) 福山市における問題点の認識不足、放置
(1) 監督体制の不備
被告牧本は、汚土収集運搬委託業務について、具体的体制や問題点についてほとんど把握、監督していなかった。
被告徳重は、下水道部長の時期においても、汚土収集運搬の具体的手続について把握しておらず、助役に就任してからも、現場業務に携わる者が事務手続を適正に行っているかどうかを監視、監督せず、現場を担当する部下に任せきりであった。
岡崎土木部長は、汚土収集運搬についての日常的業務については、問題が持ち上がったときは、その都度検討するものの(例えば不法投棄物の収集の問題)、特にチェック、監督したことはなく、山﨑建設課長以下現場を担当する部下に任せきりであった。
(2) 汚土搬入台数の調査不足
搬入台数及び委託料支出額は、別表四の1(搬入台数及び委託料額、委託料支払額推移表)のとおりである。汚土の排出量は、一年のうち、五月から七月が最も多く、次いで九月、一〇月が多く、夏と冬は、住民の清掃活動が少なく、汚土排出量も少ないが、実際には、被告備掃社から一年間通じて汚土の処理報告があった。このことは、維持係において把握されていたものの、当時、その原因について究明せず(被告備掃社の収集状況の写真を撮ってきただけであった。)、放置していた。
(3) 指示台数と搬入台数の不一致とその対処
① 昭和六二年一二月二二日から昭和六三年一二月二一日までの指示台数は別表三の2(指示台数集計表)のとおりであり、また、右期間の搬入台数は別表二の2(搬入台数集計表)のとおりである。指示書については、遅くとも汚土問題が発覚して議会等に提出するまでに、追加作成されており(別表三の1の「指示書整理表」に記載されていない分)、その場合、指示書を作成するだけで、その前提となる手続(現場確認等)は行われなかった。
また、森田は、昭和六三年一〇月四日から、指示書発行年の記載に定型文字を使用するようになり(別紙四の2)、後日指示書を作成する場合にも、右様式を使用した(したがって、定型文字が使用されている指示書は、同月三日以前の日付であるにもかかわらず定型文字の使用されている指示書、例えば、甲五〇の「3―109」は、その指示年月日如何にかかわらず、同月四日以降に作成されたものである。)。
② 指示書の交付及び「受付簿(指示書整理簿)」の記入は森田が担当し、支出関係書類の照合(搬入伝票等)は北村が山﨑建設課長の名で担当しており、相互に連絡を取るシステムになく、また、請求書類の提出から決裁までの期間が請求日の翌日ないし遅くとも八日であるから(前記(一)(1)⑤ケ)、委託料請求書類が提出された際に、指示書や「受付簿(指示書整理簿)」と搬入伝票を照合して、その不一致を確認、是正等することは、手続上無理であった(森田が数字を合わせるとすれば、被告備掃社から提出される日報(森田保管)を参考にするしかなかった。)。
③ 塩飽係長や北村主任は、森田から指示台数と搬入台数との数値にかなり開きがある旨の報告を受けた際、森田に対し、できるだけ一致するように指示書を作成するよう口頭で指示したり、被告備掃社に赴き(昭和六三年八月)あるいは福山市の窓口に訪れる被告備掃社の従業員に対し、搬入台数をなるべく指示書台数に合わせること、一台当たりの積載量をできるだけ増やすようにすることを要請し、山﨑建設課長も、森田に対し、時々、指示台数と搬入台数とが一致しているのかどうか尋ねることがあり、さらに、北村主任は、収集状況を写真撮影して収集状況を監視することもあった(その際には指示台数と搬入台数が一致した。)。
被告備掃社の作業員は、福山市からの右要請に対し、被告塩村が一度に多くの量を積まないようにと指示するので難しい旨返答し、被告塩村は、収集状況の写真撮影に対し、北村主任を被告備掃社の事務所に呼びつけ、強い語調で文句を付けてきた。
(4) 汚土収集搬入の問題点の指摘と放置
① 議会での問題指摘と放置
汚土の収集運搬の委託については、一社(被告備掃社)が独占しているということ、搬入量が年々増加していること、単価の相当性や不当投棄物等の収集等で、過去何度も福山市議会において問題とされ、そのたびに、担当課がその場しのぎの対応をしてきた。
② 庁内の問題点の指摘と放置
ア 土木建設課内において、一社に独占させることへの疑問や従量制の要素を取り入れるべきであるとの意見もあり、北村主任は、山﨑建設課長に、従量制の方がよいと進言したことがあったが、山﨑建設課長は、汚土に関する業務については被告塩村と上層部が決めていることなのでどうにもならないとあきらめた様子であった。
イ 北村主任は、昭和六二年三月ころ、塩飽係長と話し合ったうえ、被告塩村から汚土がない場合でも指示書を要求されて困っているという実情を組合関係者に相談したところ、同年五月ころ、右組合関係者から、右改善要求をしたが無視された旨知らされたうえ、以後汚土に関する業務に携わらないようにと言われ、さらに同時期に、山﨑建設課長からも、塩飽係長と北村主任に対し、汚土に関する仕事をしないように言われ、両者は、汚土に関する業務から形式的には外されることになった。
ウ 維持係では、不法投棄物を汚土に含めて被告備掃社に収集搬入を指示することになった(前記(一)(3))後も、現場の職員においては、維持係で不法投棄物を汚土として収集することを担当することにつき疑問視する向きもあった。
③ 一般市民からの問題点の指摘
福山市では、一般住民から、被告備掃社の作業員が車両一台に汚土を僅かな量しか積み込まないで搬入しているとの抗議を受けたことがあった。
(四) 被告塩村の汚土収集運搬委託業務への対応
(1) 被告塩村は、被告備掃社の実質的な経営者であり、従業員からも社長と呼ばれて、一人で被告備掃社の経営に当たっており、被告備掃社の収入のうちで汚土収集運搬によるものの割合が高かったことから(月収(平均)は、汚土収集運搬関係では約一六〇〇万円、し尿処理関係では約五〇〇万円、ごみ廃棄関係では約七〇〇万円であった。)、これに力を入れていた。被告塩村は、被告備掃社の事務所に不在のことが多く、顔を出すのは一〇日に一回程度であったが、汚土収集業務について電話で状況を確認していた。
(2) また、被告塩村は、指示書の枚数が少ないときには、作業員に対して、できるだけ多くの汚土を収集するよう要求していた。すなわち、被告塩村は、事務所に来所して指示書の枚数を確認した際、枚数が少ないと、「少ないのー。もっと出してもらえや。」と言ったり、「今月はもうちょっと無理をせんといけんのー。」等不満を従業員の前で漏らしたり、さらに、作業員に対し、「どんどん集めにゃーつまるまーが。」「おどれらはブラブラしようたら給料やらゃせんど。シャンシャン走れぇ。」「汚土はどこにでもあろうが。百姓が田の草を道へ上げとりゃぁ、それが汚土いうもんじゃ。仕事を探して走れぇ。そうせにゃぁ給料やらんど。」「運んだだけがゼニじゃろうが。」等と怒鳴ったり、また、一人一日一台しか運ばなかったことを知ったときには、作業員を厳しく叱りつけたり、さらに、指示書がないときには、「指示書がないなら探してでも行けぇ。お前ら誰に給料貰いようるんなら。」と怒鳴りつけ、「今日は一人何台運べ。」「毎月何台いかにゃあいけんけえ。そのつもりで行けぇ。」等語気荒く申し向け、作業員一人当たりあるいはひと月の目標台数を設定していた。
(3) 被告備掃社の作業員らは、被告塩村が荒々しい言動をとることに加え、暴力団と関係があるということから、被告塩村を恐れており、同被告が前項のように搬入台数の増加を強圧的に求めることから汚土外物件も収集したり、指示書がないときには、被告備掃社の作業員(長谷川)において、直接森田に対して指示書をもっと出して欲しいと頼むこともあった。
(4) 被告塩村は、指示書の枚数が少ないと、福山市役所に電話し、山﨑建設課長に対して、もっと指示書を出すよう働きかけることもあった。
3 汚土収集運搬問題(以下、「汚土問題」という。)の発覚及びその後の福山市の対応
証拠(甲一、二、四ないし七、一三、三三、三七ないし四一、四六ないし五三、五六の1、2、五七ないし七一、七二の1ないし3、七三の1、2、一二〇ないし一二五、一二七、一二九、一三〇、一三七、一四九ないし一五八、一六四の1ないし6、一六九、丙一、証人高橋一郎、同森田洋史、同北村徹郎、同山﨑廣成、同岡崎定之輔)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一) 汚土問題の発覚
(1) 汚土収集運搬業務に関する管理の問題がマスコミにより報道されて発覚した。
(2) 被告牧本は、昭和六三年一二月一九日、福山市代表監査委員に対し、事務監査を要求した(甲二、地方自治法一九九条五項)。
(3) 同月二一日、住民監査請求がなされた。
(4) 平成元年四月に被告備掃社の従業員らが詐欺容疑で逮捕されたのを初めに、同年五月、被告塩村が詐欺容疑で逮捕、送検、起訴された(2(二)(1)⑧、⑫、⑬の件についても追起訴)。
(二) 福山市における関係書類の工作
汚土問題の発覚により、監査委員、福山市議会、警察等に汚土収集運搬委託業務の関係書類を提出することになったので、山﨑建設課長の指示で、昭和六三年一二月一五日及び同月二四日に維持係の職員が中心となって、被告備掃社から提出されていた関係書類(搬入伝票の半券、発行済み指示書、業務報告書、「受付簿(指示書整理簿)」等)を参考に、福山市の保管する関係書類につき、次のとおりの辻褄合わせ工作を行うとともに、被告備掃社に対し、未使用の搬入伝票の返還を求め、その返還を受けた(それ以降は、見積もり台数分のみの搬入伝票を交付することとした。)。
その具体的な工作内容は、北村が「受付簿(指示書整理簿)」の未記入欄に書き込みをした(受付者欄では現実に受付についてほとんど関与していないにもかかわらず、「北村」の名前を書き込み、備考欄には推測により記入された。)ほか、維持係の職員が中心となって、森田が指示書を発行しなかった昭和六三年四月分(甲七二の1ないし3)及び五月分の一部(甲七三の1のうち同月一二日以前の分)のうち、四月分についてはすべての指示書を続き番号で作成し(甲七二の1ないし3)、五月分についてはダッシュを付した番号を付した指示書を作成したり(甲七三の1の「5―39’」、甲七三の2の「5―71’」、「5―79’」)、また、同年三月分、六月分ないし一〇月分及び一二月分については別紙四の3の様式を一部用いて指示書を作成したりしたうえ(例えば、甲五〇の「3―110」ないし「3―159」、甲五六の2の「6―83」ないし「6―88」、甲五七の「7―41」ないし「7―45」、甲五八の「8―35」、「8―36」、甲五九の「9―65」ないし「9―68」、甲六〇の「10―52」ないし「10―54」、甲六二の「12―1」ないし「12―45」)、被告備掃社の従業員の長谷川治雄から、新たに作成した指示書の承諾者の欄に署名をしてもらう等書類について辻褄を合わせるというものであった。
塩飽係長や北村主任は、昭和六三年末から平成元年三月ころまで、監査に対する準備や監査結果に基づく善後処理等に追われていた。
(三) 汚土問題の責任追及
(1) 監査委員は、平成元年二月一八日、市長要求の事務監査((一)(2))及び住民の監査請求((一)(3))に対する結果として、公金の支出につき直ちに違法不当な点は認められないものの、不法投棄物を汚土として処理した点、収集搬入の指示を事後になした点、運搬搬入の監視の点、汚土外物件の収集搬入の点、単価の決定及び支出伺いが本来の文書取扱事務(福山市文書取扱規程)に反している点、単価決定の際の検討が不十分な点、汚土収集運搬業務の取扱の統一化の点、本件各契約が随意契約の方法で締結された点等を問題点として指摘した。
(2) 汚土収集業務等調査特別委員会が招集され(少なくとも九回)、平成元年九月七日には神原皓二(昭和五八年度及び昭和五九年度における清掃管理課長)、被告徳重、岡崎土木部長、中島総務部長が、同年一一月六日には被告大久保他二名が、それぞれ証人訊問を受けた。その際、岡崎土木部長が答弁に立とうとすると、一部の委員から、中島総務部長の方が被告塩村と親しい関係にあるので、中島総務部長が答弁するよう要求された。
(3) 被告牧本は、平成元年一二月一九日付顛末書(甲一三七)において、汚土問題の経過(監査関係、刑事事件の経過)、被告塩村に対する念書等の交付の経緯、顛末(前記2(二)(1)②、④、⑤、⑦、⑫))について一応調査のうえ、汚土収集業務の改善、汚土問題に対する受け止めを、行政の主体性の不十分さ、行政体質の甘さ、市長の指導性や毅然とした行政姿勢の欠如による被告備掃社への安易な屈服、前例踏襲主義によるものである旨反省するとともに、契約業務等の改善、文書取扱規程の見直しを図り、行政体質の改善に努める旨表明した。
(四) 福山市の汚土収集運搬委託業務についての政策変更及びその結果
(1) 監査委員からの指摘を受けて、汚土収集運搬のシステムを以下のとおり変更した。
① 平成元年度から汚土収集運搬委託業者の決定につき、競争入札制度を導入した。
② 汚土収集運搬委託実施設計書において、土木工事標準仕様書に基づき、設計単価を算出し、落札による業務委託契約の報告書(甲一二〇ないし一二五)に添付した。
③ 委託区域を箕沖埋立地からの距離に応じて、五ブロック(A区域からE区域まで)に分け、他に一ステーションを設けることとした。
④ 委託料については、補充的に従量制を導入することとした(積載量が1.2トン未満の場合には一台当たりの価格を二割減とする。)
⑤ 委託契約の内容として、福山市から指示の内容の変更、一時中止、打ち切りができること、委託業務の処理状況について福山市において調査及び報告を求めることができること、委託業務の実施に当たっては関係法令を遵守しなければならないこと等が付加され、また、委託料の支払について、一か月間に処理した委託業務に関する委託料請求書及び業務報告書を翌月五日までに提出するよう変更された。
⑥ 契約書とは別に、汚土収集運搬業務を遂行するに当たっての遵守事項として、次のような汚土収集運搬特記仕様書が新たに取り決められた。その内容は、収集作業については、指示された汚土について取り残しのないよう処理し、指示以外の汚土収集が生じた場合や疑義が生じた場合には、福山市係員へ連絡し、その指示に従うこと、指示書記載の処理期限を遵守すること、搬入作業については、搬入伝票に必要事項すべて記載し、箕沖埋立地で確認を受けること、搬入時間は午前九時から午後四時とすること、日々の業務報告として、町内清掃汚土処理報告書、搬入伝票、町内汚土処理日報を翌日に提出すること、未使用の搬入伝票は直ちに返還する等といったものであった。
⑦ 指示書及び搬入伝票をそれぞれ三枚複写式に変更し、搬入伝票に通し番号を付記することとした。
⑧ 各年度毎に、各月の搬入状況を集計して把握するようになった(甲一五二ないし一五八)。
(2) 汚土収集運搬委託業務の変更による影響
平成元年度以降の搬入台数、単価(落札単価)及び支払った委託料は、別表四の2のとおりである。
(五) 汚土問題の関係者の処分
被告牧本は三か月間給与の一〇分の五を、被告徳重は三か月間給与の一〇分の一を、被告山下は、一か月間給与の一五分の一を、中島総務部長は一か月間給与の一〇分の一を減給する旨の処分を、岡崎土木部長は戒告処分をそれぞれ受けた。
なお、被告牧本及び同徳重は、昭和六三年四月二三日付の念書(甲二六)について、平成元年六月二八日、これを取り消し、同年七月三日、右念書が被告塩村の脅迫によるものであるとして、警察に、対し被害届を提出した。
(六) 被告塩村の刑事事件及び被害弁償について
被告塩村は、建設残土の違法搬入についての詐欺被告事件について、広島地方裁判所において、有罪の判決を受けたが、その控訴審の広島高等裁判所において、建設残土の搬入につき、被告備掃社の作業員と被告塩村との間に具体的な共謀関係があったとは認められないことを理由に無罪となった。
被告塩村は、福山市に対し、右詐欺被告事件において、建設残土の収集搬入(起訴分)に対する委託料相当額四二二万三〇〇〇円を、被害弁償として返済した。
三 本件の公金支出の違法事由について
1 汚土外物件の収集搬入に対する委託料の支出の適否
(一) 公金の支出等につき、これを規律する法令等、当該機関・職員の職務を規律する法令(権限規定、処理準則法令等)に反する場合や犯罪行為による場合には、右公金支出等は違法なものというべきである。
そして、前提となる事実(一3)及び前記認定の事実関係(二1(一)、(二)、2(一)(1)①ないし⑤、(3))によれば、(1) 本件各契約において収集搬入の対象となっていたのは汚土のみであること、(2) 本件各契約において収集搬入される物件が汚土であることを前提として、その内容(委託料、収集搬入方法、手続等)が検討され、契約締結伺いにつき必要な手続(決裁)を経て、被告備掃社との間で合意されており、汚土収集運搬のための予算の議決も経ていること、(3) 被告備掃社は、汚土外物件についても収集搬入していたこと、(4) 福山市は、汚土外物件につき汚土と同様に扱い、汚土外物件の収集搬入についても公金を支出していたことが認められるから、右公金の支出は、本件各契約を根拠とすることはできず、法的根拠のない違法なものというべきである。
(二) 被告福山市関係者は、汚土外物件の収集搬入は道路管理や環境美化等の理由から収集運搬の必要があること、汚土と汚土外物件はその判別が困難であること、両者が予算上同一の費目で扱われていること等を理由に、汚土外物件を汚土として扱い、本件各契約に基づいて被告備掃社に対して委託することに何ら違法はない旨主張する。
なるほど、普通地方公共団体は、清掃、美化等に関する事項を処理しなければならず(地方自治法二条三項七号)、その区域内の一般廃棄物の処理に関する計画を定め、その計画に従って一般廃棄物を生活環境の保全上支障が生じないうちに収集、運搬、処分しなければならないとされていることから(廃棄物処理法六条一項、六条の二第一項)、福山市としては、汚土外物件についても、処理しなければならないであろう。
しかしながら、本件各契約が汚土の収集運搬を目的としており、その契約内容等も、そのことを前提に検討され、必要な手続(決裁)を経て、被告備掃社との間で合意され、予算の議決も経ていることは前示のとおり((一))である。汚土外物件の処理については、その処理についての計画、例えば収集、搬入、処分の具体的方法や処分の主体、市の直営とするか業者に委託するか、委託にするのであれば客観的基準に基づき適正な委託料を算出し、設計書等を作成することになるが(一般的に設計書等が必要であることは証人山﨑廣成が供述するところである。)、その処理をどの部の所管とするか、処理のための予算をどの費目から支出するか等については、当該物件の特質等を考慮して、別途検討し、必要な手続(決裁、予算の承認)を経るべきであるところ、汚土外物件を汚土に含めて本件各契約に基づき収集運搬することは、右の検討作業や手続の潜脱を許容し、ひいては廃棄物処理法の右趣旨にも反することになり、到底容認できない。
また、前記認定の事実(二1(二)(9)、2(一)(1)②、③、⑤、(3))によれば、(1) 昭和六三年度から汚土の予算科目自体が二科目に渡っており、その比率につき特に基準は設けられていなかったこと、(2) 環境事業部が汚土収集運搬委託業務の所管であった昭和五九年度までは、汚土を処理するための予算科目は、衛生費清掃費塵芥処理費であったこと、(3) 昭和六〇年度以降、汚土収集運搬委託業務は、毎年度所管替えがなされ、流動的であったこと、(4) 昭和六二年初めから、清掃管理課の依頼により、汚土外物件である不法投棄物の収集がなされるようになったことが認められ、汚土収集運搬業務の予算上の取り扱い自体に問題がないとは言い難く、たまたま予算費目が一致していたからといって、汚土外物件を汚土に含めて処理したことを正当化することはできない。
しかも、福山市においては、被告塩村の詐欺被告事件の対象とされた建設残土の収集搬入に対する委託料の支出について、被告塩村から右委託料相当額を被害弁償の趣旨で受領しており(二3(六))、このことから、被告福山市関係者が遅くとも右金員受領時には、汚土外物件の収集搬入が違法であると認識していたとみるのが相当である。
したがって、汚土外物件の収集搬入の適法性をいう被告福山市関係者の右主張は理由がない。
(三) また、被告備掃社及び同塩村は、原告らの右主張に対して、本件各契約書二条にいう「汚土」には、汚土外物件も含まれることは明らかであり、また、汚土であるか否かは福山市の担当職員が判断することになっており、被告備掃社としては、福山市からの指示を受けた以上本件各契約の履行として指示の物件を収集運搬する義務を負うのであるから、被告備掃社の収集運搬には何ら違法はない旨主張する。
しかし、本件各契約により収集運搬の対象となっているのは汚土のみであることは前示のとおりであり((一))、本件各契約の解釈として、汚土外物件が本件各契約の収集物件に含まれるとみることはできず、また、前記認定の事実(二1(一)、3(六))によれば、(1) 本件各契約一条、二条は被告備掃社が収集運搬すべき物件は汚土のみであることを規定しており、汚土外物件を収集搬入する義務を負っていないこと、(2) 被告塩村は、起訴分(建設残土の一部)に対する委託料相当額(金四二二万三〇〇〇円)を被害弁償として返還したことが認められるから、汚土外物件については、たとえ福山市の担当職員から収集運搬の指示があったとしても、(過失の有無の判断要素としてはともかく)直ちにその収集搬入義務を負うものではなく、これを収集搬入することは法的根拠がないというべきであり、しかも、福山市に対する委託料相当額(一部)の返還は、被告備掃社及び同塩村自身が、汚土外物件の収集搬入が違法であることを自認していることに他ならない。
したがって、被告備掃社及び同塩村の右主張は理由がない。
(四) 以上により、汚土外物件に対する金員の支出の違法をいう原告らの右主張は理由がある。
2 指示書に基づかない汚土の収集運搬に対する委託料支出の適否
(一) 原告らは、事前に指示のない収集運搬に対する委託料の支出は、違法である旨主張する。
前提となる事実(一3)及び前記認定の事実(二1(一)(1)、(2)、(二)(1)ないし(5)、2(一)(1)⑤カないしケ、⑤、(二)(2)②)によれば、(1) 本件各契約一条は、「福山市の指示する汚土」と規定していること、(2) 汚土収集運搬の手続として、福山市の担当職員が被告備掃社に対して、収集運搬すべき汚土及びその必要車両台数を具体的に指示し、被告備掃社の作業員は右指示内容を記載した指示書に基づき汚土を収集運搬することになっていたこと、(3) 指示書は、現場確認において、物件が汚土であるか否かを判断し、指示台数を決定したうえで作成されるものとされていること、(4) 汚土の収集の際に福山市の職員が立ち会うこととされておらず、被告備掃社の作業員は、福山市の担当者の右現場確認、指示ないし指示書に基づかず、勝手に汚土あるいは汚土外物件を収集し、箕沖埋立地に搬入していたこと、(5) 搬入伝票は、事前に一括して被告備掃社に交付されており、その作業員が自由に使用できる状態であったこと、(6) 計量場において収集搬入時に車両ごとに発行される許可伝票は、環境事業部で保管されており、土木部において許可伝票と他の書類とを照合することはできないこと、(7) 支出関係書類の照合、確認を実質上担当していた北村主任は、被告備掃社から、委託料の請求関係書類の提出を受けると、指示書と右関係書類とを照合せず、指示書とは別に、事前に被告備掃社に一括して交付されていた搬入伝票の総数のみを確認して伝票確認書を作成し、搬入伝票に単価を乗じた金額を支出伺いとして決裁を受けていたこと、(8) 右(7)の決裁に基づき、指示書に基づかない収集搬入に対しても委託料として公金を支出していたことが認められる。
右のような汚土収集運搬委託契約の内容及びその履行手続とその実態に照らせば、本件各契約の委託業務の内容は、福山市の担当者から事前の指示を受けた汚土の収集運搬を行うというものであり、指示書に基づく汚土収集の指示は、現場確認(収集搬入の物件が汚土であるか否かの確認及び搬入台数の決定)を前提として事前に搬入に必要な台数を決定するものであり、後に支出すべき委託料の金額の確定に直結する極めて重要な手続であるから、右手続を遵守せず指示台数を超えてなされた収集搬入は右契約に基づく履行手続に反するものであり違法というべきである。
(二) もっとも、被告福山市関係者は、被告備掃社に対する収集運搬は、すべて福山市からの指示に基づくものであり、指示台数と搬入台数との不一致(指示書の不存在)は、汚土の目測の誤差あるいは処理手続の遅れによるものであり、この場合にも追加発注という形で事後処理を行っているのであるから、福山市の指示に基づかない収集搬入は存在せず、右処理に違法はない旨主張する。
しかしながら、被告福山市関係者の右主張は、被告備掃社に対する指示台数は誤差が生じてもやむを得ず、指示さえしていれば指示書記載の指示台数自体につき被告備掃社の作業員に対して拘束力がなく、被告備掃社の作業員が指示台数を超えた台数で搬入したとしても事後的に指示書を作成すれば問題がないというものであるが、指示内容をこのように解釈することは、前項の本件各契約の内容及び委託料支払に至る手続の実態(福山市の方で搬入台数をコントロールできないしくみ)に照らせば、事前に搬入台数を決定し被告備掃社の無断搬入あるいは水増し搬入を防止するという指示ないし指示書の意義を失わせるものである。
しかも、被告福山市関係者の主張する事後処理(指示書の追加作成)がなされたのは、そのほとんどが汚土問題としてマスコミにより報道され発覚した後であり、右処理は、二日間で、かつ、維持係の職員を動員し、被告備掃社作成の請求関係書類を根拠になされたものであり(二3(二))、右のように汚土問題として発覚した後に短期間かつ組織的になされた隠蔽工作ともみれる処理をしたからといって、指示の欠缺が補完されるわけではなく、事前指示による汚土の収集運搬と同等に評価することはできない。
したがって、事前の指示書に基づかない汚土収集運搬も適法である旨の被告福山市関係者の右主張は理由がない。
(三) 以上により、指示書に基づかない収集搬入は違法であり、したがって、これに対する委託料の支出も、違法な公金支出というべきである。
3 汚土の収集搬入に対する委託料の支出の適否
(一) 本件各契約を随意契約の方法により締結することの適否
原告らは、本件各契約が随意契約の方法により締結された違法なものであるから、本件各契約に基づく公金の支出は、何ら根拠のない違法なものである旨主張し、これに対し、被告らは、本件各契約の締結については地方自治法二三四条の適用はないこと、仮に同条の適用があるとしても、随意契約の方法によることが許される場合である旨主張するので、この点につき判断する。
(1) 地方自治法二三四条の適用の有無
汚土収集運搬処理業務は、普通地方公共団体がなすべき事務とされており(前記1(二))、その性質上、住民の生活に直結することから、その業務の完全なる遂行が住民の生活にとって必要であり(過去に直営の方法も採用されている。)、その性質上公共性が高いことは被告ら主張のとおりである。
しかし、業務の性質の公共性が高いということから直ちに地方自治法二三四条の適用が排除されるということにはならない。のみならず、本件各契約の委託業務の内容は、町内清掃により排出された汚土をスコップ等により車両に積載して収集し、処分場に搬入するという単純な内容であり、これに携わる作業員及び使用する車両については届出で足りるとされている(しかも、届出は昭和六〇年度からはなされていない。)ことは後記のとおりであり((2))、右のような本件各契約の内容等からみて、同条一項にいう「売買、貸借、請負その他の契約」に該当すると解するのが相当であって、本件各契約につき同条の適用を排除する積極的理由を見い出すことはできない。
したがって、本件各契約につき同条の適用は排除される旨の被告らの主張は理由がない。
(2) 随意契約の方法によることの適否
地方自治法二三四条一項は「売買、貸借、請負その他の契約は、一般競争入札、指名競争入札、随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする。」とし、同条二項は「前項の指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができる。」としているが、これは、地方自治法が、普通地方公共団体の締結する契約については、機会均等の理念に最も適合して公正であり、かつ、価格の有利性を確保し得るという観点から、一般競争入札の方法によるべきことを原則とし、それ以外の方法を例外的なものとして位置づけたうえで、随意契約の形式は、手続が簡略で経費の負担が少なくてすみ、しかも、契約の目的、内容に照らしそれに相応する資力、信用、技術、経験等を有する相手方を選定できるという長所がある反面、契約の相手方が固定化し、契約の締結が情実に左右されるなど公正を妨げる事態を生じるおそれがあるという短所も有することから、同法施行令一六七条の二第一項は一定の場合に限定して随意契約の方法による契約の締結を許容することとしたものと解することができる。
そして、同項一号にいう「その性質又は目的が競争入札に適しない」とは、当該契約の性質又は目的に照らして競争入札の方法による契約の締結が不可能又は著しく困難というべき場合や不特定多数の者の参加を求め競争原理に基づいて契約の相手方を決定することが必ずしも適当ではなく、当該契約自体では多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても、普通地方公共団体において当該契約の目的、内容に照らしそれに相応する資力、信用、技術、経験等を有する相手方を選定しその者との間で契約の締結をするという方法をとるのが当該契約の性質に照らし又はその目的を究極的に達成する上でより妥当であり、ひいては当該普通地方公共団体の利益の増進につながると合理的に判断される場合をいうものと解されるところ、右の場合に該当するか否かは、契約の公正及び価格の有利性を図ることを目的として普通地方公共団体の契約締結の方法に制限を加えている同法及び同法施行令の前記趣旨を勘案して、個々具体的な契約ごとに、当該契約の種類、内容、性質、目的等諸般の事情を考慮して当該普通地方公共団体の契約担当者の合理的な裁量判断により決定されるべきものと解するのが相当である(最高裁判所昭和五七(行ツ)第七四号昭和六二年三月二〇日第二小法廷判決・民集四一巻二号一八九頁参照)。
以上の観点から本件についてみるに、前記認定事実(二1(一)(1)、(2)、(二)(3)ないし(6)、2(一)(1)②、③イ、⑤エ、カないしク、(二)(1)①ないし⑬、(2)①、②、(3)、(三)(4)①ないし③、3(一)(1)ないし(4)、(三)(1)ないし(3)、(四)(2)、(五))によれば、① 本件各契約の内容、② 被告備掃社を選定した事情等、③ 随意契約締結の結果に関する事実関係は、次のとおりである。
① 本件各契約の内容
本件各契約の委託業務の内容は、福山市の担当職員が指示をした汚土を二トントラックにスコップ等で人力により積み込み、箕沖埋立地まで運搬、搬入するというものである。汚土を収集運搬する作業員及び運搬に使用する二トントラックは、福山市に届け出れば足り、本件の委託業務を行うにつき、作業員に特別な資格が要求されておらず、また、二トントラックに特別な装備等は必要とされていなかった。
また、福山市には、被告備掃社以外の廃棄物処理業者が存在していた。すなわち、平成元年度からは、被告備掃社以外の業者が汚土収集運搬業務の委託を受けており、被告備掃社以外の業者でも、委託を受けて汚土収集運搬業務を遂行することは可能であり、実際、平成元年度から、五区域一ステーションに分割して競争入札の方法が導入され、少なくとも平成六年度までは実施されており、被告備掃社以外の業者が入札に参加し、落札していた。
② 被告備掃社を選定した事情等
被告塩村は、廃棄物処理業務へ参入することを希望し、被告備掃社を設立して実質上の経営者として福山市に働きかけていたが、福山市からは、ゴミの排出量が新規参入を認めるほど多くないこと、被告備掃社に委託基準に達する経験が欠如していること等を理由に受け入れられなかった後も、福山市あるいはその担当職員らに対して、圧力をかけ、暴行、脅迫を繰り返し、念書等の交付させる等して強圧的かつ執拗に、右業務の参入をもくろんでいた。
福山市の上層部は、被告塩村から危害を加えられるのを恐れて、その要求を毅然として拒むことをせず、極力同被告との関わりを避けようとしており、また、福山市の現場の職員も、被告塩村が福山市役所において非常識な言動、振る舞いを繰り返すため、被告塩村と関わりを持つことを嫌っていた(汚土収集運搬委託業務の頻繁な所管替えも、環境事業部の職員が被告塩村との関わりを避けるために行われたものである。)。
被告塩村は、昭和五五年度以降、福山市から汚土収集運搬委託を受けるようになった後も、指示書をもっと出すこと、搬入伝票を事前に一括して交付すること等を要求し、懇意にしていた中島総務部長を通じる等して、右要求を福山市に認めさせ、また、意に沿わない職員に対し暴行行為を行ったり、被告徳重に対しては、二度にわたり公の場において怒鳴りつけて辞職を迫ったほか、被告牧本や同徳重に対しても、拡声器で辞職を迫ったり、さらに、福山市議会で被告備掃社に汚土収集運搬業務を委託していることが問題として取り上げられた際にも、被告備掃社に対する右業務の委託を継続するように迫り、最終的にはその旨の念書を要求して、その交付を受ける等被告備掃社が汚土収集運搬業務の委託を受け続けることができるようにするため、執拗に理不尽な強圧的な態度を繰り返していた。
福山市の上層部は、被告塩村の右態度、行動により、同人に逆らえば危害を加えられるものと恐れ、被告塩村の要求を甘んじて受け入れ、同人と出来るだけ関わらないようにしていた。
③ 随意契約締結の結果
汚土問題が発覚する以前から、福山市役所内や福山市議会において、被告塩村が実質的な経営者である被告備掃社に対して、汚土収集運搬業務を委託することが疑問視され、たびたび問題として取り上げられたことがあり、また、一般市民からも、被告備掃社の収集運搬業務に対して、被告備掃社の作業員が一度に収集する量を少なくして運搬しているとの苦情が出されていた。
結局、汚土問題が発覚し、被告備掃社が委託料と称して多額の公金を不正に受け取っていたとして、新聞等で大きく取り上げられ、被告塩村が詐欺容疑で逮捕、起訴され、また、汚土収集運搬委託業務に関する住民監査が請求され、その結果、監査委員から、多数の問題点が指摘され、さらに、被告牧本が念書により被告塩村と密約していたことも明らかになり、福山市議会においても、特別委員会が召集され、汚土収集運搬委託業務に関する責任の追及がなされた。被告牧本は、汚土問題についての顛末書を提出したうえ、自らも含めて関係者を処分した(被告牧本、同徳重、同山下、中島総務部長に対する減給、岡崎土木部長に対する戒告)。
以上の事実関係を総合すると、本件各契約は、汚土の収集運搬による環境美化を目的とし、その委託業務の内容は代替性のある単純作業であり、被告備掃社以外に汚土収集運搬業務の遂行可能な廃棄物処理業者による競争入札の方法により汚土収集運搬委託契約を締結することは可能であったのであるから、本件各契約は、その性質又は目的に照らして競争入札の方法によることが不可能ないしは著しく困難というものではなく、また、被告牧本ら福山市上層部が、被告備掃社の汚土収集運搬に関する能力、信用、技術、経験等につき、他の業者と比較検討したうえで、被告備掃社のもつ特別な能力や技術、経験等に着目した結果として被告備掃社を相手方として選定したというわけではない。
かえって、被告塩村が廃棄物処理業務へ食い込み参入することに異常なまでの執念を持ち、福山市の上層部に迫り続けて汚土収集運搬業務の委託を受けることとなり、その後も、同被告が理不尽な要求を実現すべく福山市の上層部及び現場職員に対して強圧的、暴力的な言動をとりつづけ、他方、福山市の右関係者は、被告塩村を恐れて逆らえないままその要求を鵜呑みにし、汚土収集運搬業務に関しても、被告塩村が、被告牧本らに対し、強圧的かつ執拗に被告備掃社に汚土収集運搬業務の委託を明に暗に求め、被告牧本らは、被告塩村を恐れ、その言いなりであったことから、被告牧本らは、被告塩村の意に沿うべく、被告備掃社と本件各契約を締結することを企図して本件各契約を随意契約の方法で締結したというべきである。
このことは、本件各契約及びそれ以前の汚土収集運搬業務委託契約の締結に際してとられた手続が、次のような不公正、不透明なものであったことからも窺われる。すなわち、本件規則(甲一五九)が予定価格は契約の目的となる物件又は役務について、取引の実例価格、需給の状況、履行の難易、数量の多寡、履行期間の長短等を考慮して適正に決めなければならず(三〇条、四一条及び四二条)、そのために、なるべく二名以上の者から見積書を徴しなければならない(四三条)と規定して、随意契約の方法により契約締結する場合であっても(あるいは官商結託の弊害の生じる恐れの高い随意契約の方法によるからこそ)、見積書を複数徴することにより、契約の公正、価格の経済性を確保し、契約担当者の技術的判断の補充することとしているにもかかわらず、右規定を無視し担当者が作成した文書に上司が決裁するという通常の文書取扱事務(福山市文書取扱規程)に反して、汚土収集運搬業務を過去所管しあるいは将来所管する可能性のある五部長が、「管理者責任」と称して、その連名により起案したこと、その起案における単価は、その算出のための計算方法や基礎となる資料が明らかでないこと、被告牧本は、右起案に基づきその金額を予定価格と決定したこと、被告備掃社と本件各契約を締結する過程で、被告備掃社からしか見積書を徴しなかったこと、右予定価格は、被告備掃社からは被告牧本が決定した予定価格とほぼ同額の見積金額が提示されたという事情が認められることは、前示のとおりである(二2(一)(1)③、④)(右事情からは、被告備掃社あるいは被告塩村と予定価格の決定に関与する関係者との間で、被告備掃社が見積書を提出する前に、当該年度の委託料(単価)につき、情報の疎通があった可能性も否定できないところである。)。
しかも、被告備掃社を相手方として汚土収集運搬を委託し続け、契約の相手方を固定したことから、汚土問題が発覚し、被告塩村の刑事事件、市長と一私人との密約の発覚、福山市議会での責任追及、関係者の処分に至り、このことにより、福山住民に対して、福山市の行政への不信感を抱かせる事態に至ったのであり、かかる結果の重大性は、本件各契約を随意契約の方法により締結したこと、その相手方として被告備掃社を相手方として選定したことにより惹起された弊害に他ならない。
以上によれば、被告牧本ら福山市の上層部が、被告備掃社を相手方として選定し、本件各契約を随意契約の方法により締結したことは、その裁量権の逸脱、濫用したものであるといわざるを得ない。
(二) したがって、本件各契約は、随意契約の方法によることができないにもかかわらず、随意契約の方法により締結されたものであり、随意契約の方法を制限する法令(地方自治法二三四条一項、二項、同法施行令一六七条の二)に反するものであるから違法であり、本件各契約の効力は、その余の点(本件各契約内容の公序良俗違反の有無)につき判断するまでもなく、地方自治法二条一五項、一六項により無効というべきである(すなわち、前示のとおり、被告塩村と被告牧本ら福山市の上層部との特殊な関係から随意契約の方法により締結され、長期にわたり固定化した本件各契約関係は、種々の弊害を露呈するに至り、もはや公正な取引の実を失している状況にあるのであるから、かかる契約の効力を容認することは、随意契約の締結に制限を加えた前記法令の規定の趣旨を没却する結果となり、許されないというべきである。)。
四 被告らの責任
1 被告牧本の責任
被告牧本は、当時福山市の市長であり、福山市から委任を受けた者として、福山市に対し、委任の本旨に従い、善良なる管理者の注意義務をもって、その職務(委任事務)を遂行しなければならないところ、同被告は、普通公共団体の長として、当該地方公共団体の条例、予算その他の議会の議決に基づく事務その他地方公共団体の事務を自らの判断と責任において誠実に管理し執行する義務を負っており(地方自治法一四八条、一四九条)、本件についてみれば、支出負担行為(同法二三二条の三)の決裁や支出命令の発令(同条の四)に際してこれらが適法か否か、あるいは契約の締結に際して随意契約の方法をとることが適法か否かを審査し、補助機関である収入役の被告山下に対する監督等会計事務を監督する義務を負う(地方自治法一四九条五号)ものである。
そして、前記認定の事実関係(二1(二)(9)、2(一)(1)②、⑤、(2)、(3)、(二)(2)①、②、(3)、(三)(1)ないし(4))によれば、(1) 被告牧本の決裁した支出負担伺いや支出命令には、伝票確認書や支出すべき委託料の金額が記載してあり、これにより、汚土の搬入量や委託料が昭和六〇年度から異常に上昇したことを認識していたにもかかわらず、昭和六三年度から予算科目を一科目から二科目に増やす措置を講じて対処したのみで、その核心的な問題点(指示書の要求、搬入伝票の事前一括交付、支出関係書類の照合の不備、指示台数と搬入台数との不一致、搬入台数の追跡調査不足等)につき、調査したうえ改善する等必要な措置をとらなかったこと、(2) 被告塩村への対応を嫌う現場(環境事業部)の職員の要望を容れて、汚土収集運搬委託業務の所管を持ち回りとし、毎年度所管を替え、その結果、事務の引継ぎが徹底を図られなかったこと、(3) 昭和六二年に環境事業部から土木部に対して不法投棄物の収集依頼があり、土木部で承けなかった問題について、被告牧本は、汚土外物件である不法投棄物についても汚土として処理する旨決定したまま、その後不法投棄物の処理につき再検討しないまま放置したこと、(4) 同じ福山市内でも、駅家町では、汚土収集運搬について、被告備掃社に対する委託とは別の方法がとられており、被告牧本もその旨決裁しており、統一的な廃棄物処理を怠っていたこと、(5) 汚土問題の発覚前から、被告備掃社に対し汚土収集運搬を委託することにつき、議会等において問題視されていたが、被告牧本はこれを放置しており、汚土収集運搬委託業務、ひいては被告塩村との関わり合いを極力避けていたことが認められる。
そうすると、被告牧本は、汚土収集運搬業務について、汚土搬入台数の急増、それに伴う支出する委託料の急増という異常事態を認識しており、汚土収集運搬業務を担当する現場の実態を調査すれば、諸問題点について容易に把握しえたにもかかわらず、右問題点の調査、検討、対策をとらず、毎年、引継のないまま所管替えを決定し、汚土収集運搬業務の担当、責任の所在を不明確な態勢に至らしめ、汚土外物件の処理が問題となった際にも、被告備掃社に任せるため汚土外物件についても汚土として扱うという場当たり的な方策に陥り、廃棄物全体の処理対策を行っていたのであるから、被告牧本は、汚土も含めた廃棄物の処理について、福山市からの受任者である普通地方公共団体の長としての義務を怠ったというべきである。
さらに、前記認定の事実(二2(一)(1)③、(二)(1)、(2)、(3))によれば、被告牧本は、(6) 被告塩村から福山市の行政に対し長年にわたり有形、無形の不当な圧力を受けていたが、被告塩村を恐れて、その要求を拒むことができず、汚土収集運搬業務の委託に関し、継続的に被告備掃社に委託すること、目標台数を設定し努力すること等福山市の条例、規則に反する違法な裏取引をし、その旨の念書等を内密に交付したり、被告塩村が実質的な代表者である被告備掃社を委託業者として選定し続ける等被告塩村の要求するがまま行政運営をしていたこと、(7) 本件各契約の前身でである昭和五九年度の委託契約から関与し、毎年度の契約締結伺いにつき、契約締結を通常の文書取扱事務(福山市文書取扱規程)に反して、五部長が連名により起案しているものであったにもかかわらず、これを決裁したことが認められる。
そうすると、被告牧本らを初めとする福山市の上層部が、被告塩村の脅しや圧力に対し毅然とした行政姿勢で対処せず、安易に屈服したために、随意契約の方法によることができないにもかかわらず、被告備掃社を委託業者に選定するために、本件各契約を随意契約の方法で締結したものであるから、被告牧本は、随意契約の方法によることができない場合に該当することを知りながら右方法により本件各契約を締結した点についても、福山市からの受任者である普通地方公共団体の長としての義務を怠ったというべきである。
以上の被告牧本の行為は、委任者である福山市に対する善良な管理者としての注意義務に違反するものであるから、被告牧本は、右債務不履行に基づき福山市に生じた損害を賠償する責任を負うものというべきである。
2 被告栗原の責任
被告栗原は、当時福山市の助役であり、福山市から委任を受けた者として、善良なる管理者の注意義務をもって、その職務(委任事務)を遂行しなければならず、長がその事務を処理するにあたり、これをもっぱら内部的に補佐し、その補助機関たる職員の担当する事務を監督しなければならない(同法一六七条)。
しかるに、被告栗原は、市長であった被告牧本の前記違法行為(1)を行うことを黙認して放置したほか、自らも本件各契約の内容の決定等にも関与し、過去に暴行を受けたことのある被告塩村が実質的経営者である被告備掃社を本件各契約の相手方とすることを容認し(一2、二2(一)(1)③エ、(二)(1)③)、また、岡崎土木部長が作成した現場確認のなされていない不正確な支出命令書を安易に決裁し、収入役であった被告山下に違法な現金の支出を行わしめたものであるから、普通地方公共団体の助役としての義務を怠ったというべきである。
したがって、被告栗原の右行為は、委任者である福山市に対する善良な管理者としての注意義務に違反するものであるから、被告栗原は、右債務不履行に基づき福山市に生じた損害を賠償する責任を負うものというべきである。
3 被告徳重の責任
被告徳重は、当時福山市の助役であり、福山市から委任を受けた者として、善良なる管理者の注意義務をもって、その職務(委任事務)を遂行しなければならず、長がその事務を処理するにあたり、これをもっぱら内部的に補佐し、その補助機関たる職員の担当する事務を監督しなければならない(同法一六七条)。
しかるに、被告徳重は、市長であった被告牧本の前記違法行為(1)を黙認してこれを放置したほか、前示のとおり(二2(一)(1)③、(3)、(二)(1)⑦、⑨ないし⑫)、(1) 下水道部長の時期から、被告塩村との間で、内密に念書を取り交わしたこと、(2) 昭和六二年ころ生じた不法投棄物の収集問題で、汚土として収集搬入するとの結論を出し、市長に上申したこと、(3) 被告徳重は、助役就任の際及び福山市内のデパートにおいて、被告塩村から、公衆の面前で怒鳴りつけられ、あるいは、拡声器で辞職を求めるよう要求された(昭和六二年一二月及び昭和六三年一月)にもかかわらず、昭和六三年度の契約締結の際、被告備掃社を委託業者とする契約締結伺いに決裁し何ら異議を申し出なかったことが認められるから、被告徳重は、普通地方公共団体の助役としての義務を怠ったというべきである。
したがって、被告徳重の右行為は、委任者である福山市に対する善良な管理者としての注意義務に違反するものであるから、被告徳重は、右債務不履行に基づき福山市に生じた損害を賠償する責任を負うものというべきである。
4 被告大久保の責任
被告大久保は、当時福山市の助役であり、福山市から委任を受けた者として、善良なる管理者の注意義務をもって、その職務(委任事務)を遂行しなければならず、長がその事務を処理するにあたり、これをもっぱら内部的に補佐し、その補助機関たる職員の担当する事務を監督しなければならない(同法一六七条)。
しかるに、被告大久保は、汚土収集運搬委託業務を所管する土木部については担当外であるものの(二2(一)(1)①)、不法投棄物の収集運搬を土木部に依頼していた環境事業部や、本件各契約締結に際して関与していた農林部等旧建設局の一部を担当していたこと、汚土収集運搬委託業務が旧建設局所属部の持ち回りであること及び本件各契約の締結伺いに決裁をしていること(二2(一)(1)③イないしエ、(3))をも併せ考えると、右各部の事務を通じて本件各契約の締結及びその履行に直接、間接に関与していたものであるから、土木部の業務が担当外であるからといって、助役として、市長であった被告牧本の前記違法行為を黙認、放置し、かつ、右各部の職員の担当事務が適正に行われるように監督すべき義務を怠った責任を免れることはできない。
したがって、被告大久保は、助役としての義務を怠ったことにより、委任者である福山市に対する善管注意義務に違反したものというべく、右債務不履行に基づき福山市に生じた損害を賠償する責任を負うものというべきである。
5 被告山下の責任
被告山下は、当時収入役であり、普通地方公共団体の長の監督(同法一四九条五号)を受けながらも、その会計事務の執行につき予算執行機関たる長から独立してつかさどる義務を負っており(同法一七〇条一項)、本件各契約に基づく委託料の支出手続の際、支出負担行為に関する確認を行い(同条二項)、市長(被告牧本)から右委託料を支出する命令を受けた場合には、当該支出負担行為が法令又は予算に違反していないこと等を確認したうえで支出しなければならない(収入役の審査権、同法二三二条の四第二項)。
ところで、被告山下が支出をする際、不備のない形で決裁を受けた支出関係書類が支出命令書とともに渡され、これを決裁していたものであるところ(二2(一)(1)⑤ケ)、被告山下において、市長(被告牧本)から支出命令を受けた右委託料が、被告備掃社からの違法、不正な請求にかかるものであることを知っていたとか、これを知り得べき事情があったということについては、本件全証拠によってもこれを認めることができないから、被告山下が本件各契約による委託料支出行為の決裁を行ったことにつき、故意または重過失(同法二四三条の二)があったとすることはできない。
したがって、被告山下は、本件の違法な公金の支出により福山市に生じた損害を賠償する責任を負わないというべきである。
6 被告備掃社及び同塩村の責任
(一) 汚土外物件及び事前指示のない物件の収集運搬に対する責任
前記認定の事実(一2、二1(一)(1)、(2)、2(一)(1)⑤エ、カ、(三)(3)③、(四)(1)、(2))によれば、(1) 被告備掃社は、本件各契約の直接の相手方であり、当時の代表者が契約書に署名押印しており、本件各契約の内容として、収集搬入の物件が右契約書二条記載の汚土であることを認識していたこと、(2) 被告備掃社の作業員は、同社の実質的な経営者であり、業務全般を指揮、監督していた被告塩村から、一度に多くの量を運ばず、とにかく自分で仕事を探してでも多くの回数を箕沖埋立地に運搬するよう強く指示、要求され、作業員一人当たりが収集運搬すべきノルマを指示することもあったこと、(3) 被告備掃社の作業員(班長的立場の者)は、福山市から汚土が排出されたので収集するようにとの依頼があると、福山市役所に指示書を取りに行き、右指示書を各作業員に割り振っていたこと、(4) 被告備掃社の作業員は、被告塩村から、指示書が少ないないしは指示書が出ていない場合には、指示書を出すように福山市に要望することがあり、被告塩村自身も、福山市役所に電話をして、指示書を要求することがあったことが認められる。
そうすると、被告備掃社の作業員は、本件各契約において収集搬入すべき物件は汚土であり、その収集搬入のためには、福山市からの指示書が必要であるということを認識していたにもかかわらず、被告塩村からのできるだけ箕沖埋立地への搬入回数を増やすようにとの業務命令のもとに、汚土外物件あるいは指示書に基づかない収集搬入をし、被告備掃社において、右搬入物件台数に相当する金員を委託料名下に違法に領得したのであるから、被告備掃社は、右不法行為(民法四四条)により福山市に生じた損害を賠償すべき責任があるというべきである。
(二) 本件各契約が随意契約の締結を制限する法令に違反してなされたことによる責任
本件各契約が随意契約の制限に関する法令に違反して締結され、違法、無効であること、本件各契約を随意契約の方法により締結した最大の要因は、被告備掃社の実質的な経営者であった被告塩村自身が、被告備掃社に対して汚土収集運搬等廃棄物処理に関する業務の委託を続けるよう強圧的かつ執拗な言動、ときには暴力、脅迫により迫り、被告福山市関係者を驚愕させ、その要求に屈服させていた点にあることは前示のとおりであるから(三3(一)(2))、被告塩村は、被告福山市関係者をして被告備掃社と福山市との間で随意契約の方法により違法に本件各契約を締結させるに至らしめた張本人というべきであり、被告備掃社及び同塩村の責任は重大である。
したがって、被告備掃社及び同塩村は、本件各契約を随意契約の方法により違法に締結させたことにより、福山市が被った損害を賠償する責任があるというべきである。
(三) 以上により、被告備掃社は民法四四条により、被告塩村は同法七〇九条に基づき、それぞれ福山市に生じた全損害を賠償する責任を負うとの原告らの主張は、その余の点(被告福山市関係者の違法行為を幇助した旨の主張)を判断するまでもなく理由がある。
7 被告らの責任の性質
被告牧本、同栗原、同徳重及び同大久保の債務不履行に基づく損害賠償債務並びに被告備掃社及び同塩村の不法行為に基づく損害賠償債務は、不真正連帯債務であるから、福山市に対し、各自全部の支払義務を負うものというべきである。
五 損害額
1 福山市に生じた損害
福山市に生じた損害額は、本件各契約により福山市が出捐を余儀なくされた違法不正な支出であり、具体的には次のとおりである。
(一) 汚土外物件の収集搬入及び指示書に基づかない収集搬入による損害
汚土外物件の収集搬入については、何ら法的根拠なくなされたものであり、福山市は、これに対して委託料を支払ったのであるから、その委託料全額が損害である。
また、福山市が指示書に基づかずなされた汚土の収集搬入についても、福山市の指示書なくなされており、本件各契約に基づかないものであるから、これに対して支払った委託料全額が損害である。
その損害額は、各年度の単価に、汚土外物件の収集搬入台数または指示書のない汚土収集搬入台数(搬入台数総数から指示書に基づいて汚土を搬入した台数を控除したもの)を乗じたものである。
(1) 昭和六二年度(昭和六二年一二月二二日から昭和六三年三月三一日までの搬入分)
右年度の単価は金二万〇四〇〇円であり、汚土外物件または指示書に基づかない収集搬入台数は、別表二の2(搬入台数集計表)及び同三の2(指示書集計表)によれば、右期間の全搬入台数(二〇四三台)から指示書に基づく汚土の収集搬入台数(多くて四五八台)を控除した数(一五八五台)であるから、次のとおりである。
三万〇四〇〇円×一五八五台=三二三三万四〇〇〇円
(2) 昭和六三年度(昭和六三年四月一日から同年一二月二二日までの搬入分)
右年度の単価は金二万〇六〇〇円であり、汚土外物件または指示書に基づかない収集搬入台数は、別表二の2(搬入台数集計表)及び同三の2(指示書集計表)によれば、右期間の全搬入台数(七二八〇台)から指示書に基づく汚土の収集搬入台数(多くて二一五〇台)を控除した数(五一三〇台)である。
ただし、起訴分(昭和六三年四月から六月の間の二〇五台分)については、福山市はすでに弁償を受けているので、これに相当する損害(金四二二万三〇〇〇円)は、全損害額から控除される。
二万〇六〇〇円×五一三〇台−四二二万三〇〇〇円=一億〇一四五万五〇〇〇円
(二) 随意契約の方法により本件各契約を締結したことによる損害
右損害は、他のとるべき契約方法(競争入札に基づく方法)をとっていれば福山市が支出しなかったはずの金額であり、その金額は、少なくとも、本件各契約の単価と本件各契約締結の直近の平成元年度の競争入札により決定された落札単価の平均値(一台当たり金一万四三六九円)との差額に、指示書に基づく汚土の収集運搬台数を乗じたものとみるのが相当である。
したがって、各年度の具体的な損害金額は次のとおりである。
(1) 昭和六二年度(昭和六二年一二月二二日から昭和六三年三月三一日までの搬入分)
(二万〇四〇〇円−一万四三六九円)×四五八台=二七六万二一九八円
(2) 昭和六三年度(昭和六三年四月一日から同年一二月二二日までの搬入分)
(二万〇六〇〇円−一万四三六九円)×二一五〇台=一三三九万六六五〇円
2 被告牧本、同栗原、同備掃社及び同塩村が福山市に対して填補すべき損害額
右被告ら四名は、汚土外物件及び指示書に基づかない汚土の収集搬入に対する委託料支払により福山市が被った損害及び本件各契約を随意契約により締結したことにより福山市の被った損害を賠償する責任があるから(四1、2、6)、右被告が福山市に対して填補すべき損害額は、一億四九九四万七八四八円である(1(一)(1)、(2)、(二)(1)、(2))。
3 被告徳重が福山市に対して填補すべき損害額
被告徳重は、昭和六三年度分の汚土外物件及び指示書に基づかない汚土の収集搬入に対する委託料支払により福山市が被った損害及び本件各契約のうち昭和六三年度の契約を随意契約により締結したことにより福山市の被った損害を賠償する責任があるから(四3)、右被告が福山市に対して填補すべき損害額は、一億一四八五万一六五〇円である(1(一)(2)、(二)(2))。
4 被告大久保が福山市に対して填補すべき損害額
被告大久保は、昭和六二年度分の汚土外物件及び指示書に基づかない汚土の収集搬入に対する委託料支払により福山市が被った損害及び本件各契約のうち昭和六二年度の契約を随意契約により締結したことにより福山市が被った損害を賠償する責任があるから(四4)、右被告が福山市に対して填補すべき損害額は、金三五〇九万六一九八円(1(一)(1)、(二)(1))のうち、原告らの請求額である金三三九八万九七八五円である。
六 結論
よって、原告らの本訴各請求中、被告大久保に対する請求は理由があるから認容し、被告牧本、同栗原、同備掃社及び同塩村に対する請求は、各自金一億四九九四万七八四八円及びこれに対する同牧本及び同栗原については平成元年四月五日から、同備掃社については平成元年四月六日から、同塩村については平成元年四月八日からそれぞれ支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、同徳重に対する請求は、金一億一四八五万一六五〇円及びこれに対する平成元年四月四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、同山下に対する請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民訴法六一条、六四条本文、六五条本文をそれぞれ適用し、なお、仮執行宣言は相当でないからこれを付さないこととし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官松村雅司 裁判官金村敏彦 裁判官髙橋綾子)
別紙一〜七<省略>